再生医療×リハビリテーション

再生医療で使われる細胞や治療の実例を整理し、リハビリテーションの語源と健康の定義に立ち返りながら、「再生リハビリテーション」という両者をつなぐ考え方を紹介します。

“再生医療”という言葉はよく聞くようになってきていると思いますが、どのようなものかはなかなか詳しく理解するのが難しいんじゃないでしょうか。

また再生医療が普及するに従ってその後のリハビリテーションの重要性も高まってくると思います。

セラピストとして働いている中で、今後クライアントが再生医療の治療を受ける機会が出てきたり、病院での治療の後のリハビリテーションに関わる機会も出てくるかもしれないので、今回はこちらを一緒に勉強していきましょう。

再生医療とは?

まずは再生医療の全体像を見てみましょう。

厚生労働省のホームページから引用すると、平成26年9月に世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が行われ、平成26年11月に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と併せて、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」を施行し、再生医療等の安全性の確保に関する手続きや細胞培養加工の外部委託のルール等が定められました。

まずは実例をいくつか見てみましょう。

再生医療の実例

まずマサチューセッツ工科大学では切手サイズの皮膚組織を3000倍に増殖させることに成功しています。そこから皮膚だけでなく軟骨の培養も進め、実用化を目指しています。

他には目の角膜を患った患者への治療としてドナーからの提供による角膜移植が行われていますが、ドナー提供者が少ないこと、拒絶反応があることなどから、自己細胞を使った再生角膜による治療が試みられています。

日本国内では東北大学・東京女子医科大学・慶應義塾大学・京都府立医科大学などで研究が進められています。

末梢神経損傷に対する三次元神経導管移植の概念図

皮膚や目以外にも手の末梢神経を再生させる研究も主に京都大学を中心にして行われていたりします。

あとは変形性膝関節症に対する再生医療を提供するクリニックも出てきたりしていますね。

そもそも再生医療で用いられる細胞とは?

まず人間の体は、37兆個以上、200種類以上の細胞で構成されていると言われており、最初は1つの受精卵が、分裂・増殖を繰り返しながら、神経細胞、心筋細胞、肝臓細胞など、成体を構成する様々な細胞に分化していきます。

再生医療においてよく名前を聞くのがES(embryonic stem cells)細胞・iPS(induced pluripotent stem cells)細胞というあたりかと思いますが、これらは幹細胞と呼ばれ様々な組織を作る元になります。

ES細胞・iPS細胞・体性幹細胞など、幹細胞の種類と分化の流れを示す図

世の中には様々な疾患の治療法があるのですが、このような再生医療を用いることで今までは解決できなかった疾患の治療法を見つけようと研究者が努力しているわけですね。

組織全てを再生させるわけではない

世の中で再生医療という名前が出ている施設やサービスが増えていますが、内容は様々です。

例えばPRP(Platelet Rich Plasma)療法というものがありますが、こちらは自身の血液に含まれる血小板を膝に注射する治療法で、このようなものも再生医療の一つと考えられています。

先ほど例に挙げた膝のクリニックでも再生医療を謳っていますが、半月板・変形した骨を再生させるわけではなく上記のような治療法を通して膝の痛みを軽減する、というのが主な目的だったりします。

よって再生医療の中身をしっかり理解しておくことで、その後の関わり方も変わってくるので勉強が必要なわけですね。

リハビリテーションとは?

今回は再生医療×リハビリテーションについてのコンテンツなので、リハビリテーションについても考え直してみようと思います。

そもそもリハビリテーションの語源はラテン語で、re(再び)+ habilis(適した)、すなわち「再び適した状態になること」「本来あるべき状態への回復」などの意味を持ちます。

いったん広くリハビリテーションについて考え直してみましょう。

そもそも本来あるべき状態とは?

ここでWHOで言われている健康の定義を見てみましょう。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity. 健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、身体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。

世界保健機関憲章前文(日本WHO協会仮訳)

本来あるべき状態は、“健康”な状態とも考えられると思いますが、ここにあるように身体的・精神的・社会的に全てが満たされた状態であるということですし、なかなか奥深いですよね。

今回は再生医療×リハビリテーションというテーマなので精神・社会についてはいったん置いておいて、身体について深めてみましょう。

とは言えクライアントに直接関わる際には精神・社会というテーマも重要ではあるので今後また別の形で取り上げていきますね。

身体的に良い状態とは?

先ほどの定義にもあるように、必ずしも病気がないことが健康、というわけではなく、世の中には身体障害のように現代の医療では改善できない疾患を抱えている人もいるのでそんな人でも健康に過ごすためにはどうしたら良いか?ということは考える意義があると思います。

そこで重要なのは本人の生活・仕事・娯楽などの活動が問題なく行うことができ、満足できるのであれば身体的にも良い状態になるんじゃないでしょうか。

もちろん痛みや疾患などがゼロであれば問題はないと思いますが、どうしてもそれぞれの問題をゼロにするのは難しいですし、ただそれでも本人が納得いくところまで身体の状態を改善できればセラピストとして関わった意義があると考えられます。

よってリハビリテーションの目的としては身体的に完璧な状態を目指す、というよりは本人の個別性も考慮した上で適切な目標設定をしてアプローチすることが望ましいでしょうね。

定量的・定性的

そして目標設定をする上では定量的・定性的の両方を考慮することが重要だと思います。

身体における定量的なものとしては筋力、可動域、体組成などが考えられますし、定性的なものとしては痛み、生活の質、満足度などが考えられます。

セラピストとしてクライアントに関わる際にはしっかり問診をして本当のニーズを探りつつ、専門家として客観的な状況を把握した上で一緒に目標設定をしてアプローチすることで理想の形に近づいていくんじゃないでしょうか。

少し抽象的な話になりましたが、再生医療×リハビリテーションについて考えるにあたって、そもそもどんな関わり方をすると良いかについてもこれを機に意識してみていただけたらと思います。

再生医療×リハビリテーション

最後の章として今回の本題に入っていけたらと思いますが、母校の研究室の先生が再生リハビリテーションに関するエッセイを書いているので参考までに引用しておきますね。

「再生」という言葉は、衰えていたものが生気を取り戻すさまや生まれ変わるさまを表し、「再生」の言葉は目の前の霧が晴れていくような印象を与えます。これに対して「リハビリテーション」のイメージはつらく、苦しいことに耐えるような印象を持ってしまいます。

しかし両者の言葉の由来を調べてみると、「再生Regeneration」は「re:再び+generare:生産する」、「リハビリテーションRehabilitation」は「re:再び+habilis:適合する」とけっこう似た言葉のように見えます。また「再生医療:regenerative medicine」は、「傷害を受けた組織や臓器が有する自己治癒能力を引き出す医療」であり、「リハビリテーション医療:rehabilitation medicine」は、「疾病や外傷で障害された機能を回復し、活動に対する支障を最小化する医療」です。このようにしてみると両者の目指しているものはとても似たものである事に気がつきます。おそらく再生医療で扱われている手法や対象の事象次元が分子や細胞、組織であるのに対して、リハビリテーション医療で扱われている対象がヒトや社会という事象次元の違いが、両者のイメージの距離を広げてしまっているように思えます。

もし、その両者の間の次元の差が取り払われるときには、どちらもさらに素敵なものになるのではないでしょうか。再生医療は組織や臓器の形状や機能の再生に目が向きがちですが、もっと直接的にヒトの幸福に寄与していることが示されれば、再生の持つ言葉の意味はもっと輝きを持つことでしょう。逆にリハビリテーション医療が分子や細胞レベルの次元で機能回復を促すことが示されれば、単に曲がらなくなった膝を曲げようと苦しむ医療ではなく、病理学的治癒を得られる医療といえるかもしれません。

この両者の距離を縮める目的で「再生リハビリテーション:regenerative rehabilitation」という言葉を使っております。とても似た意味ですので二重表現と怒られそうですが、異なる次元の階層を言葉でつなげることで、それぞれの階層の双方向性を生み出せればと考えております。最近の研究ではリハビリテーション医療において用いられる運動療法によって筋肉や骨からサイトカインが放出され、運動器のみならず中枢神経や内臓器にも細胞レベルで良好な影響をもたらすことが明らかになってきました。このことはヒポクラテスが運動療法の効用として挙げていた筋力強化、体力回復、精神力向上の病理学的な効果として説明するものでしょう。

さて、数年前から再生医療で用いられる細胞治療に加えて、移植された細胞の生着能を高め、機能分化を促すリハビリテーション技術を開発しております。それってなにかすごく素敵なことが起こりそうな気がしませんか?

ここにあるように再生医療・リハビリテーションそれぞれReという言葉が入るため、どちらも“元に戻す”という意味合いがあって実は近いイメージがあるんですよね。

痛みに対するアプローチ

先ほども少し触れましたが、再生医療と言っても全ての治療が組織を再生させるわけではなく、痛みの改善目的で再生医療的な技術を使う治療法もあります。

そこにおいては通常のアプローチと近く、痛みの悪化を防ぐための関節可動域の改善・筋力の回復・動作の改善などは従来の考え方でもできますし、予防やさらなる改善を目的に物理療法などを行う方法もあるでしょう。

歯科領域にはなりますが、PRP療法と物理療法の併用(LIPUS・レーザーなど)についても記述がありますし、今後注目されてくる印象ではあります。

組織再生とリハビリテーション

例えば末梢神経の再生リハビリテーションにおいては、これまで損傷部に対する直接的な刺激と、効果器である骨格筋に対する刺激が主でしたが、今後はよりターゲット部位を拡大し、脊髄神経細胞や神経筋接合部に対するアプローチによる新たな可能性も示唆されてきています。

また、ラットにおける研究ではあるものの軸索損傷モデルに対して適切な超音波刺激強度も検討されています。

興味深いことに、骨折治療ですでに臨床応用されている30 mW/cm²(SATA)では再生促進効果は得られず、140 mW/cm²で最も良好な再生が認められました。

このように再生医療のバリエーションが増えていくとともに、その後の回復に関するリハビリテーションの研究も増えていくので今後も要チェックの分野だと思われます。

参考文献・出典