物理療法の理解を深めるための物理学・生物学

物理療法を熱力学・力学・電磁気学という3つのエネルギーの視点から分類し直したうえで、炎症・疼痛・運動制限・筋トーヌス異常という4つの生理学的変化を整理します。

セラピストとして普段から物理療法を活用する機会があるかもしれませんが、今回はその基礎となる物理学・生物学について情報共有ができたらと思います。

物理療法機器は日々開発が続いていて新しい商品も出てきたりするんですが、なんとなく他のものとの違いが理解しきれない時もあるんじゃないでしょうか。

そんな時に物理・生物学の基礎を理解しておくと、物理療法機器の原理・特性や、効果について考えやすくなると考えられます。

物理療法とは?

まずは物理療法と言ってもさまざまな種類がありますが、分類すると以下の3つに分けることができます。

完全に分けきることはできずに被ってくるものもありますが、ざっと分類できると理解しやすくなるでしょう。

温熱・寒冷療法(熱力学)

まずは熱力学という視点から温熱・寒冷療法というもの。

温熱・寒冷療法にもいろいろ種類があって、温度はどのくらいか、表面・深部どのあたりにアプローチするのか、刺激を与える部位、などによって物理療法にもいろんな種類のものがあります。

少し具体的に例を挙げてみると、温熱療法ではホットパック・超音波・極超短波/マイクロ波・ラジオ波など、寒冷療法ではアイスパック・コールドスプレー・クライオセラピーなど、また組み合わせると交代浴のようなものもありますね。

これらのベースになっているのが熱力学という考え方になるので、後ほど共有していきます。

機械的療法(力学)

続いて機械的療法ですが、こちらも牽引・圧迫・水・音波などさまざまなものがあります。

一見するとそれぞれ別のものに見えるかもしれませんが、牽引は引っ張る力、圧迫も抑えつける力、水も浮力や水圧のような力、音波も空気や物質を振動させる力、ということでベースは力学として捉えられるんですよね。

もう少し広くみると徒手によるマッサージやストレッチ、運動によるトレーニングなんかも機械的療法という観点で考えることもできるかもしれません。

力の特性を理解するとこのあたりも考えやすくなっていくでしょう。

電磁気療法(電磁気学)

最後に電磁気療法ですが、紫外線・赤外線・レーザー・ラジオ波などさまざまなものがあって、目に見えないので特に理解するのが難しめかもしれません。

これも後半部分で電磁気学に関する情報共有もしますが、波形・強度・持続時間・電流の方向・周波数などいろいろ分類の仕方があるんですよね。

そして効果としても血流を改善したり、痛みを改善したり、筋緊張のコントロールをしたり、いろいろな用途があります。

このようにいろいろな種類がある物理療法ですが、何をしているかと言うと何らかの物理的なエネルギーを体に与えている、ということになるんですよね。

そこでここからは基本的な物理学について一緒に勉強していけたらと思います。

物理療法の理解を深める物理学

物理学ではエネルギーというものについてよく考えます。

エネルギーと言うとなかなかイメージしづらいかもしれませんが、定義としては“仕事をする能力”と表現されます。

この仕事は“人が仕事をして働く”という意味とは少し違い、熱・力・電磁気のようなものが働くこと。

ここから熱・力・電磁気とは何なのか?ということを深掘りしてみましょう。

熱力学

熱と言うと温かい・冷たいのようなざっくりした表現もありますし、温度で計測することもあります。

水をイメージした時に冷たくなれば凍るし、温かいと液体の水、もっと熱くなると沸騰して蒸発しますよね。

このように熱エネルギーの強弱によって形態が変わることを三態と呼びます。

物質の三態(固体・液体・気体)と、熱エネルギーによる状態変化を示す図

水であれば0℃で凍って、100℃で沸騰しますが、これは摂氏の表現。

他にもアメリカやイギリスでは華氏が使われているし、物理的な表現としては実はケルビンというものもあります。

摂氏・華氏・ケルビンの温度目盛りを対比した図

この熱エネルギーの特徴としてはエネルギーが大きい方から小さい方に移動するため、例えば人の体温より温かいものを触れさせれば体温がより温かくなるし、逆に冷たいものを触れさせれば体側の熱エネルギーが外に移動して体温が下がる。

このような熱エネルギーの特徴を利用したものがいろんな温熱・寒冷療法となっている感じですね。

力学

力としてわかりやすいのはまずはテコの原理じゃないでしょうか。

テコの原理における支点・力点・作用点の関係を示す図

例えばストレッチをするときはまさにこの原理が使われていて、関節が中心の支点となって人が力点に力を加えることで骨や筋肉に作用して動くようなイメージ。

また力は与える面積にも影響があるという特徴もあって、例えば徒手で同じ力を加えたとしても手を広げている時と指だけで押す時は作用のしかたが違うし、極端な例だと鍼だと面積がとても小さいので少し力を加えるだけで皮膚を突き破って体の中にまで入りますよね。

同じ力でも接触面積によって圧力が変わることを示す図

あと超音波も力学の一種という話もあってなかなかこれが理解しづらいかもしれませんが、音というものも空気の振動が伝わっていくわけなので力として捉えられるんですよね(超音波療法の場合は温熱効果もあるので熱としても捉えられるんですが)。

音波の伝わり方(疎密波)を示す図

超音波の周波数と生体組織への到達深度の関係を示す図

このように力学的な考え方が活用された物理療法がいろいろある感じです。

電磁気学

まずは根本的な電気について少し紹介しますが、原子の中には核があって、その周りに電子がある、そしてその電子が回路の中で流れることによって電流が発生するわけですね。

原子の構造(原子核と電子)を示す図

電子の移動によって電流が発生する仕組みを示す図

そしてこの電流にもいろんな種類があって強さ、周波数、波形などに違いがあり、電流の周りに磁気というものも発生する特徴があります。

直流・交流・パルス電流など、電流の波形の種類を比較した図

電流の周りに磁場が発生する仕組みを示す図

電磁気療法の物理学も基本的にはこのような原理を用いていろいろな種類が存在しています。

電磁波のスペクトル。周波数・波長によって紫外線・赤外線・マイクロ波などに分かれることを示す図

ここで人の体の中において神経伝達に電気が使われているし、体内には水がたくさんあってここにも+とーのイオンも存在しているので、このいろんな種類がある電磁波を使うことによって体への影響が変わってくる感じですね。

このような物理的なエネルギーが体に与える影響について理解するために、改めて体の生物的な特徴も見ていきましょう。

物理療法における生理学的な変化

物理療法においてアプローチする主な身体の症状は以下の4つになります。

炎症・組織修復

組織は損傷すると炎症が起き、そこから徐々に組織修復が進んでいきます。

フェーズとしては以下のようにまとめられることが多いですね。

炎症反応:損傷が起こると、免疫系が活性化し、血管が拡張して血流が増加します。これにより、白血球や栄養素が損傷部位に集まり、病原体と戦ったり、損傷した組織を除去したりします。この段階では、腫れ、赤み、熱感、痛みなどの症状が見られることがあります。

増殖段階:炎症が収まると、新しい血管が形成され、修復に必要な酸素や栄養素が供給されます。また、線維芽細胞がコラーゲンを産生し、新しい組織の基盤を形成します。

再建・リモデリング:最終段階では、新しく形成された組織が強化され、より機能的な組織に変化します。コラーゲン繊維が再配置され、強度と柔軟性が向上します。

組織修復の3つのフェーズ(炎症期・増殖期・リモデリング期)の時間経過を示す図

そしてそれぞれのフェーズにおいて炎症初期であれば悪化を防ぐために温熱・電磁気療法は控えて寒冷・圧迫などをおこなう、増殖・リモデリングが進んでくると回復を促進するために血流をあげ、可動域制限があればそのための物理的な刺激を加えていく、というような方向性が考えられます。

疼痛

セラピストとしては痛みに対するアプローチをすることが多いと思いますが、改めて痛みの仕組みも理解していきましょう。

刺激の検出:体の組織が損傷を受けた時、この損傷を検出する特殊な神経細胞(痛覚受容体・レセプター)が活性化されます。これらの受容体は、熱、圧力、化学物質など、さまざまなタイプの刺激に反応します。

信号の伝達:活性化された痛覚受容体は、神経線維を通じて脊髄へと信号を送ります。この信号は脊髄で処理され、さらに脳へと伝達されます。

脳での処理:脳は受信した信号を解析し、痛みとして認識します。痛みの場所、強さ、性質(鋭い痛み、鈍い痛みなど)が決定されます。

反応:痛みの認識に基づき、体は適切な反応を示します。例えば、手を火に近づけると熱さを感じ、すぐに手を引くような反射行動が起こります。

痛みの伝導路。侵害受容器から脊髄後角を経て脳に至る経路を示す図

痛みを感じる流れとしては上記のような感じですが、物理療法を活用して痛みを軽減する際にはどのフェーズに対してアプローチするかによってやり方が変わってきます。

運動制限

運動制限については普段からよく考えられていると思いますし、関節・部位によって制限の起こる原因は異なるので全てを解説することはできませんが評価の方向性についてざっとお伝えできたらと思います。

まずは自動運動・他動運動という形で自分が動かす・誰かから動かされる時にどこが制限になっているのか、また生理的運動・副運動と呼ばれますが一部が動いた時に他の部位にどんな影響が出るのかということも評価の対象になります。

また関節の運動制限については関節包パターン・非関節包パターンと呼ばれ、関節自体の可動性とその周りの可動性を評価することもありますね。

関節可動域制限の評価の分類(自動運動・他動運動、関節包パターン・非関節包パターン)を整理した図

筋トーヌス異常

筋トーヌス・筋緊張の異常については主に低緊張・高緊張の状態があります。

1. 低トーヌス(低緊張)

  • 筋肉の緊張が異常に低い状態
  • 原因:筋肉疾患、神経系の障害、遺伝的要因、未熟児、ダウン症候群など

2. 高トーヌス(高緊張)

  • 筋肉の緊張が異常に高い状態
  • 原因:脳性麻痺、脳卒中、多発性硬化症、パーキンソン病、外傷後の合併症など

筋緊張の異常は何らかの疾患によって起こることが多いので、一般の方に関わる中ではそこまで出会わないかもしれませんが物理療法によるアプローチを活用することはあるのでざっと知っておけると良いと思います。

筋トーヌス異常の分類と、それぞれに対応する物理療法のアプローチを整理した図

まとめ

今回は物理療法について学ぶ上で、あえて物理学と生物学を分けてそれぞれの情報をまとめてみました。

物理療法というと〇〇を使えば××という効果がある、というように覚えがちですが、根本的な物理学・生物学に立ち戻って理解を深めると状況に応じた使い分けのアイデアがさらに考えやすくなると思います。

治療を行う上ではこのような基礎学問を勉強するのもけっこう勉強になると思うので、興味がある分野があればさらに深めてみてください。