今回は、腰痛に関係する解剖・運動学や運動療法に関する情報をまとめてみようと思います。
腰部の解剖、運動学
まずご存じの通り、腰椎は5つの椎体で構成されています。
また体幹筋としては、背部・腹部それぞれ3層に配列しています。背部は深層面:傍脊柱筋、中間層面:下後鋸筋、浅層面:広背筋からなり、腹部は深層面:腹横筋、中間層:内腹斜筋、表層:外腹斜筋から構成されています。
これらの筋が働くことによって、体幹を屈曲・伸展・側屈・回旋のような動きがおこなわれるので、まず大まかにイメージしておきましょう。
続いて腰椎のアライメントですが、生理的前弯が存在しており立位では腰椎1番の椎体は仙骨直上に位置しています。
この腰椎前弯によって腰椎に加わった荷重は広く分散・吸収されるのですが、この生理的前弯が消失しアライメントが後弯位になると、広背筋・脊柱起立筋への負荷が高まり慢性的な腰痛につながる可能性があるので重要なポイントですね。
またここで椎間関節の関節面の傾きを見ていくと、胸椎では前額面に近いのに対して腰椎では矢状面に近いという特徴があります。
矢状面とは体を前から後ろ方向に区切るような面で、関節面がこのような方向にあるということは前後屈・側屈はしやすいものの、回旋方向には動きにくいということが特徴になります。
実際に三次元モデルを使った運動解析をした結果としても、各椎体の椎間可動域を測定すると前後屈は平均2〜6°に比べ、回旋は片側平均1〜2°程度と小さかったことが報告されています。
つまり体幹周りの施術や運動指導をする際には、腰部を大きくひねるような動きは損傷のリスクが高まるため注意した方がいいことがわかりますね。
このようにまず基本的な腰部の骨格と運動の様子を理解しておくことは重要なので、理解を深めていってください。
腰痛に対する運動療法の変遷
ここで今回は腰痛に対する治療理論の変遷について少し触れてみます。
医療の知識は日進月歩で、常に新しい研究がおこなわれているので明日また新しい知見が見つかる可能性もあります。
腰痛の治療に関してもさまざまな研究がおこなわれており、運動療法のような治療理論も歴史の中で移り変わってきているのでその一部を紹介します。
- 腹腔内圧理論
- 後部靭帯系理論
- 体幹深層筋制御理論
①腹腔内圧理論
腰痛の原因として特に前屈をした時などに支えられない、また脊柱の不安定性が原因ではないかと考えられていましたが、そこでまず提唱されたのが①の腹腔内圧理論。
1957年にBartelinkらは、体幹筋群に表面筋電図を貼り、胃の内部にセンサーを内蔵した風船を挿入して重量物を持ち上げる動作を観察しました(マジかよ、という感じ。今ではおそらくできない)。
その結果内・外腹斜筋の筋活動とともに腹腔内圧の増加が確認され、それによって体幹の安定をもたらすんじゃないかと考えられました。
実際に臨床で腹腔内圧が高まることによって体幹伸展筋活動が減少した、というような報告もあるようですがここにはまだ疑問が残ります。
数学的なモデルを用いた検討では、腹腔内圧だけで脊柱を保持しようとすると250mmHgというくらいの圧が求められるようで、もしこれが維持されると腹大動脈が圧迫されて内臓と下肢血液供給が遮断されることになるとのこと。
よってまだ腹腔内圧だけでは脊柱の安定化がはかれないのではないか、という結論になります。
②後部靭帯系理論
続いて考えられたのが、②の後部靭帯系理論。
このメカニズムは発生学を基本に考えられており、二足動物で最も顕著に発達した股関節伸展筋群(大臀筋とハムストリングス)の力が、後部靭帯系(椎間関節包、棘間・棘上靭帯、胸腰筋膜)を介して反対側の広背筋へ伝達することで大きな力を支えられると考えられたものです。
後部靭帯系の中でも胸腰筋膜は強い組織で、これによって体幹を前屈した時や重いものを持った時に支えられるので体幹の安定性がうまれ腰痛の発生を防ぐことができるのではないかと考えられました。
しかし、ここにも限界がありました。
大きなものとしては腰椎に対する剪断力と、脊柱に対する過剰な圧縮力にあると言われています。
これだけ聞くとなかなか難しいですが、もう少し簡単にまとめると剪断力はいわゆる椎体がすべるような働きで、まず後部靭帯系だけではこの剪断力を制御するには不十分であると考えられること。
また、後部靭帯系のような表層の組織で体幹を支えようと思った時に共同収縮という形で体幹全体に力が入ることがあると言われていますがこうなると脊柱全体に圧縮力がかかりすぎてしまうためリスクではないかと考えられています。
このように先ほどの腹腔内圧や後部靭帯系ではまだ体幹を支えるには不十分であるため、他のポイントはないかと研究はさらに進んでいきます。
③体幹深層筋制御理論
そしてこの次に考えられたのが③の体幹深層筋制御理論です。
様々な実験を通して腹筋・背筋が体幹制御に与える影響が調べられましたが、多裂筋の重要度が高いことがこのあたりで報告されてきます。
多裂筋は体幹背部においてそれぞれの腰椎の分節についており、椎体の安定性を保つとともに、ある程度大きな力にも耐えられる性質があると考えられています。
そこで、これまで考えられていた腹腔内圧理論と後部靭帯系理論の限界を解決するような要素が備えられているんじゃないか、ということで期待が高まった感じですね。
だいぶ腰痛改善のための真理に近づきつつあるようには思いますが、ここまできてもまた新しい限界はどうしても見つかってしまいます。
具体的には、深層筋の発火時間、筋力、トレーニングの臨床結果に関してまだ議論が続いている状況です。
深層筋の発火時間に関しては、前段階として多裂筋を含めた腹横筋のような深層筋は重いものを支えたり、バランスが悪い時に先に働いて脊柱を事前に安定させる機能がある、と言われているものになります。
腰痛患者ではこの深層筋の活動が遅れてしまうという報告があるのですが、トレーニングによって改善できるのかという点がまず疑問として残るところ。
また深層筋のトレーニングに関しては、臥位や四つ這いのような姿勢で低強度でおこなわれることが多いですが、果たしてそれによって腰痛の原因にもなりうる重いものを持つような負荷に耐えられるのか、というところも疑問が残るところです。
このように腰痛の治療理論もいろいろ移り変わってきて、それぞれ限界が見えてきたり議論はまだ続いているんですが臨床の場面ではこれらの知識は持っておきつつクライアントの状況に合わせてアプローチができると効果が高まりやすいと思うので、今回は科学の歴史を少し知ってもらえたらと思います。
エビデンスに基づいた運動療法
上のような情報だけだと、「じゃあどうしたらいいの?」という感じになりそうなので最後は今のところ明らかになっている運動療法のエビデンスについてまとめようと思います。
まず運動療法をおこなった場合と、おこなわなかった場合を比べると、運動療法をおこなった方が痛みの改善はあるという報告がなされているので、腰痛に対して運動療法をおこなう、という選択は良いと思われます。
また運動療法以外にも、腰痛教室指導・認知行動療法・物理療法・徒手療法などは大きな違いがないという報告もあるので、組み合わせたり代替手段として使うには効果が出る可能性があると考えられます。
ここで運動療法にもいろいろな種類があると考えられるので、効果的な介入をするためには腰痛患者をサブグループに分けるClassification(クラシフィケーション)というものが重要になります。
今回だけでは説明がしきれませんが、ここでは大きくMovement(ムーブメント)障害・Motor Control(モーターコントロール)障害というものに分けられます。
それぞれ簡単に解説すると以下のような形です。
- Movement(ムーブメント):純粋に関節の動きなどに硬さがあり、腰痛につながるような動きになってしまうこと。
- Motor Control(モーターコントロール):動き(Motor)を制御(Control)することで、思い通りに体幹の動きをコントロールできないことで痛みにつながるというもの。
よってクライアントに対して運動療法をおこなう時には、体の状況に合わせてどちらをおこなうか、ということをイメージすることが重要になりますね。
順番としては、まずMovement障害があるのかをチェックし、その後にMotor Control障害があるのかをチェックする、という流れだとやりやすいんじゃないでしょうか。
このような考え方を身につけて腰痛をはじめ、他の痛みなどがあるクライアントに対応していくと効果がでやすいと思うので参考にしていただけたらと思います。