腰痛の臨床推論

そもそも医療で「正しい判断」は可能かという問いから出発し、Red flags・Yellow flagsの評価、Motor control/Movement障害の分類、force closureの考え方、そして実際の評価ルーティーンまでを整理します。

セラピストとして腰痛を訴える方に関わる機会は多いんじゃないでしょうか。

実際に厚生労働省の調査でも、腰痛を訴える人は日本国民の中でかなり多いことが報告されています。

腰痛と一言に言っても多様な症状と原因がありますし、推論の考え方を理解しておくことはとても重要でしょう。

そもそも正しい判断はできるのか?

今回は腰痛の臨床推論についてまとめてみますが、あくまでこの考えに従えば100%正しい判断ができるという訳ではないです。

それは原理的にそもそも医療において正しい判断は不可能という考え方があるので、最初に触れてみます。

『医療とは何か』では細菌性肺炎を例に考えています。

医療は基本的に診断が先で治療が後で行われ、以下のような流れが一般的です。

  1. 情報収集
  2. 診断は細菌性肺炎
  3. 可能なら治療法の確認
  4. 患者への「説明と同意」
  5. 治療法の決定
  6. 抗生物質による治療開始
  7. 肺炎の治癒

ここで治療の開始は⑤⑥あたりになると思いますが、果たしてここで「正しい判断」はできるでしょうか?

よくよく考えるとあくまで⑦の時点で「あの判断は正しかった」と後から評価できるものだと思います。

よってここから今回の腰痛についても臨床推論を学ぶことで100%正しい判断ができるようになるわけではないですが、可能な限り正解に近い、正しいと確信できる判断をすることにはつながると思います。

ぜひこのような原理は理解した上で、臨床推論の精度を高めていってください。

まずは大きな方向性の整理

まず腰痛を訴えている人が目の前に来た時の考え方は以下のような形があります。

腰痛の臨床推論の全体フロー。Red flagsの除外、Yellow flagsの評価、身体機能評価へと進む流れ

専門家だからこそリスク管理をまずは重要視して、Red flagsの評価は意識してもらえたらと思います。

また、腰痛は身体の要因だけでなく精神・心理的な問題が絡むこともあるのでそこも意識できると良いでしょう。

そこから身体の評価をしっかりして具体的な運動や施術の方向性を考えられると良いですね。

Red flagsの評価

ここではもう少し詳しくRed flagsの評価・分類についてみていきましょう。

腰痛におけるRed flags(重篤な疾患を示唆する徴候)の一覧表

この表にあるような症状があって何らかの疾患が疑われる場合は、セラピストによって対処できる範囲を超えている可能性があるので注意しましょう。

Yellow flagsの評価

続いてYellow flagsの評価ですが、ここではKeele STarT Backスクリーニングツールというものを紹介します。

こちらはアンケート指標なのですが、身体的要因と心理的要因についての評価を行うことができ、一定の基準を超えるとYellow flags型の腰痛である可能性があります。

Keele STarT Backスクリーニングツールの質問項目一覧

Keele STarT Backスクリーニングツールの層別化とスコア判定の基準

心理的な問題の中でも、恐怖回避思考や不安、破局的思考・うつなどいろいろな種類があり、細かく考えていくとそれぞれの状況において適切な関わり方は異なってきますし、もしセラピストとして対応する限界を感じる場合は、精神科や別の心理職のサポートも受けられると良いんじゃないかと思います。

運動療法のクラシフィケーション

ここから腰痛に対する運動療法に関してですが、身体の状況に応じて運動療法としてのアプローチも変わってくるので全体的な考え方をまずは紹介します。

腰痛に対する運動療法のクラシフィケーション図。Motor control障害とMovement障害の分岐

以下では、上の図にあるMotor control / Movement障害の違い、force closureの仕組みについて紹介して運動療法の新しいアイデアを考えるきっかけにしてもらえたらと思います。

Motor control / Movement 障害

以下の図は、脊柱の安定性のイメージ図なんですが、ここではニュートラルゾーンとエラスティックゾーンに分けて考えられます。

腰の動きについて考えた時にニュートラルゾーン内であれば損傷が起こりづらく、エラスティックゾーンの端にいくほど可動域の限界値に近づいているので損傷が起こりやすくなると考えられます。

脊柱の安定性を示す図。ニュートラルゾーンとエラスティックゾーンの関係

ニュートラルゾーンとエラスティックゾーンを簡略化して示した図

ここから運動療法について考えると、腰の痛みが起こりづらくなる方向性としては以下のようなものが考えられるでしょう。

  1. ニュートラルゾーン内で耐えられる負荷を大きくする
  2. ニュートラルゾーンを広げる
  3. エラスティックゾーンを広げる
  4. エラスティックゾーンで耐えられる負荷を大きくする

細かい具体的な運動療法については多様になりすぎるので割愛しますが、様々ある腰痛に対する運動療法について分類していくと大まかにこのようなものに分かれていくと思います。

受傷起点からの分析をする際にはどのような動き・機能が課題であったか明らかにしやすくなるし、リハビリテーションとしての復帰の目標、今後取り組みたいこと(仕事、スポーツ、娯楽など)を考える際にも、どのようなアプローチを取れば良いか考えやすくなるでしょう。

force closure

続いて骨盤帯の痛みに関係するforce closureという仕組みについてですが、骨盤帯の安定性においてform closureとforce closureという考え方があります。

form closureは関節的構造によって仙骨を支える力で、force closureは仙腸関節周囲の筋群により仙骨を圧迫する力となります。

ここでそれぞれの力が過剰すぎたり、逆に弱くて安定性がなくて痛みにつながる、どちらも考えられるので状況に合わせてアプローチできると良いでしょう。

form closureとforce closureによる骨盤帯の安定化機構を示す図

form closureは骨格的な問題なのでアプローチするとなると、足部のアライメントを整えたり、体幹のアライメントを整えたりすることになります。

また直接仙腸関節にアプローチする方向性としてAKA-博田法のようなものもありますが、特殊手技で把握できていない部分も多いので一旦言及は控えておきます。

ただforce closureに関しては筋群による原因なので、過剰すぎる圧を減らしたり、弱くて安定性が足りない場合、それぞれについてはまだ考えやすいと思います。

force closureが不足している場合の骨盤帯へのアプローチを示す図

骨盤周囲の筋群を活性化させるエクササイズの例

方向性としては骨盤周囲の筋群を活性化させ、安定性を高めるようなものが良いと考えられますね。

以下は逆に、force closureが過剰なパターンになります。

force closureが過剰な場合の骨盤帯へのアプローチを示す図

骨盤帯への過剰な負荷を減らすためのエクササイズの例

上記のような形で、骨盤帯に対する過剰な負荷を減らすことができれば痛みを軽減させやすくなるでしょう。

評価・治療ルーティーン(例)

ここからは自分が腰痛の方の対応をする際のルーティーンを簡単にまとめてみようと思います。

前提として先ほどのRed flags・Yellow flagsのようなものではなく、主に運動器の問題だとある程度把握できてからのアプローチになります。

まずは立位の状態で前後屈・側屈など腰部を動かしてもらい、そこでの動き方・痛みの有無について評価することが多いです。

そこから次は可能であればうつ伏せになってもらい、脊柱を圧迫するようにして痛みの有無と可動性を確認します(ここで脊柱の硬さと痛みの程度の把握ができることが多い)。

そして腰部周囲の筋に指圧のような圧迫を加えて筋の硬さと圧痛を確認、痛みの根本原因がどこにあるかを探っていきます。

運動器が原因の腰痛は、椎間板・椎間関節・腰部周囲の軟部組織(筋や腱、靭帯)が主なもので、複合していることもあるので、全体的な様子をこのあたりで把握できると良いですね。

さらにより詳細に把握していこうと思うと、股関節の可動域や大腿部の硬さ、膝・足部のアライメント、胸椎の可動性・アライメントなど、腰部以外の状況も把握し、その間に普段の生活環境や仕事の様子、また性格や考え方など多方面で理解していけると、より精度の高いアプローチがしやすくなると思います。

運動療法以外にも場所によっては物理療法が活用できる場合もあるでしょうし、心理面へのアプローチに関してはまた様々な手法があるのでまた少しずつ共有していきますね。

また腰痛に関するコンテンツは他にもあるので、よかったらこれを機に見直していただけたらと思います。

参考文献・出典