肩こりの歴史と科学

夏目漱石から文化依存症候群まで肩こりという言葉の来歴をたどり、末梢筋・神経循環レベルで「こり」の正体を整理したうえで、評価とアプローチ、そして根本原因の探り方まで扱います。

日本でセラピストとして活動していると、肩こりの悩みを聞く機会はとても多いと思います。

自分自身も肩こりで困っている人もいるんじゃないでしょうか。

厚生労働省の調査においても、日本人で肩こりに悩んでいる人はかなり多い報告もあるんですが、実は肩こりは日本特有の悩みとされています。

今回は肩こりの歴史と、科学的なアプローチについていろいろ学んでみましょう。

肩こりの歴史

実は日本以外の言語において肩こりを表す言葉はあまりなく、英語で直訳すればstiff shoulderとされますが日本人が感じるような不快感・困りごととは違ったニュアンスになります。

そこで日本人はなぜ肩こりという言葉を使って症状を表現するのか?ということを歴史的に見てみましょう。

夏目漱石の小説「門」

肩こりの歴史を調べていくと1910年に出版された夏目漱石の「門」という小説にて初めて肩こりという言葉が用いられたとよく書かれています(この夏目漱石説も最近は否定する説も出てきていますが)。

登場人物が互いの肩を指で押してみる場面で「頸(くび)と肩の継ぎ目の少し背中へ寄った局部が、石のように凝っていた」と描写されており、ここから「肩が凝る」という言い回しが生まれました。

それ以前は肩のこわばりを指す一般的な表現は明確になく、漢方由来の「痃癖(けんぺき)」という言葉が使われたり、「打ち肩」「内肩」という言葉で表現されることもあったようです。

治療対象・肩こり関連商品の普及

徐々に肩こりという言葉が普及していくとともに、整形外科・内科・神経科などでも肩こりに関する研究が進んでいき、診断名としては「頸腕症候群」や「緊張型頭痛」のような症例を通して肩こりに対するアプローチが増えていきました。

1960年以降はテレビなどでも肩こり体操や原因・対策の解説がされる機会も増えていき、昭和中期以降は特に肩こり関連商品の広告を通して言及される機会も爆発的に増えていったとされているようです。

具体的にはサロンパスのような湿布薬やマッサージ器・マッサージチェア、近年では「ストレートネック」「スマホ首」のような言葉を通してストレッチグッズや姿勢矯正器具のような商品もどんどん増えているように思います。

文化依存症候群

精神科医の中井久夫の『治療文化論』という本にて、普遍症候群と文化依存症候群という言葉が示されています。

普遍症候群は世界共通の疾患である一方で、文化依存症候群は特定の文化圏においてのみ存在する症状。

まさに肩こりは日本における文化依存症候群とも捉えられるので、評価・改善の方法は日本において探求する意義が多い症状でしょうね。

なお「冷え」と合わせた歴史的な背景については「冷え」や「肩こり」から考える身体症状の歴史と科学でも扱っているので、あわせて読んでみてください。

そもそも“こり”は何によって起こっているのか?

ここでいったん、そもそも“こり”とはどんな状態なのか?ということも考えてみましょう。

ここを考えておくと、評価・治療をする際のベースになると思います。

末梢筋レベル

① 筋硬度の上昇 上部僧帽筋の剪断弾性率が健常者より高い → 客観的に“硬く”なっている(超音波エラストグラフィー)

② 低負荷持続収縮による微小循環低下 安静〜低負荷収縮時の筋内血流が一貫して低下し、同時に表面EMGで筋活動が高い

③ 血流低下→エネルギー危機 虚血環境下では乳酸・H⁺が蓄積し、求心線維を化学刺激して疼痛を誘発する“エネルギー危機モデル”が支持される

④ トリガーポイント/タウトバンド形成 筋終板の異常放電とサルコメア短縮が局所虚血を固定化し、“硬結”として触知される

神経・循環調節レベル

① 交感神経亢進と筋血流 反復低負荷作業+心理ストレスで筋電図・皮膚導電反応(交感指標)とも上昇し、酸素化低下が持続

② 中枢性感作 肩こりの一部サブタイプでCentral Sensitization Inventoryが高値。痛みを感じて防御性収縮による悪循環

③ アドレナリン受容体と筋低灌流 慢性僧帽筋痛では筋内血流の持続的低下とα受容体の関与が報告され、交感‐循環失調が示唆される

肩こりの評価

ここからは科学的に肩こりをどう評価しておけば良いかについて考えていきましょう。

姿勢・動作の分析

肩こり患者では一般的に不良姿勢が原因となると考えられているので、まずは上位交差性症候群のような頭頸部が前方に偏位する姿勢でないかチェックすることが多いです。

実際に頭頸部が前方に偏位することで僧帽筋上部の筋活動が過剰になって疲労感が増大することは研究で確認もされています。

また必要に応じて腕の痺れのような症状を感じる場合はスパーリングテストや神経テンションテストのような神経圧迫の有無を評価することもできると良いでしょう。

筋硬度・筋緊張

主に僧帽筋の硬さは肩こり症状との関連が強いと考えられますが、筋硬度計や超音波エラストグラフィによる弾性率測定によって筋肉の硬さを計測することも最近は行われています。

ただ実際のところ客観的な筋硬度と自覚的な肩こり症状が必ずしも相関しないという研究調査もあるため、単に硬いから肩こりがある、とはすぐにつなげない方が良いかもしれません。

また医療従事者を対象とした研究にて、肩こり有訴者は非有訴者に比べてストレス指数が有意に高く、症状が強い人ほど破局的思考(痛みに対する悲観的認知)が強い一方で、筋硬度には群間差がなかったという報告もあります。

肩こりは単に筋肉の硬さだけではなさそうです。

主観評価尺度・圧痛閾値

アルゴメーター(圧痛計)という機器を用いて、一定速度で圧力を加えていき痛みを感じ始める圧の強さを評価する方法もあり、米国理学療法士協会の頸部痛ガイドラインでも「圧痛閾値のアルゴメトリック評価を含めるべき(エビデンスグレードB)」と推奨されています。

他はVAS(Visual Analogue Scale)やNRS(Numeric Rating Scale)のような形で0〜10・0〜100の尺度で評価したり、NDI(Neck Disability Index)のような問診票で主観的な症状について調査する方法もありますね。

肩こりは客観的な身体の状況だけでなく、精神面も影響することが考えられるので、主観的な症状もバランスよく評価していけると良いと思います。

肩こりに対するアプローチ

肩こりに対するアプローチもさまざまなものがあるので、ここからざっと見ていけたらと思います。

運動療法・徒手療法・物理療法

まず運動療法としては、頸深部の筋力トレーニング・肩甲帯・肩甲骨周囲のエクササイズ・頸部周囲筋のストレッチなどが行われることが多いです。

少し特殊なものとしては、レーザーポインターを頭につけて頸部コントロールのトレーニング・エクササイズをするものが出てきているようですね。

方向性としてはこりをほぐす運動と、そもそもこりが起こりづらくなるような姿勢を保てるようにする運動、両方があるでしょうね。

徒手療法としては、頚椎・胸椎のモビライゼーション、硬くなった筋筋膜のマッサージやトリガーポイント圧迫、筋膜リリースなどが行われます。

ガイドラインにおいても運動療法・徒手療法は併用することが望ましいとされています。

徒手においても運動と同様に今あるこりをほぐすためのアプローチと、根本的な姿勢を改善するためのアプローチ、両方あるでしょう。

徒手療法は評価としても考えられることがあると思いますし、徒手にて関節可動域や筋筋膜の状況をうまく把握して運動指導にもつなげていけると良いですね。

物理療法としては、温熱療法・低周波電気刺激、頚椎牽引などが有効となる可能性が高いと慢性疼痛診療ガイドラインにも記載があります。

その他東洋医学的な鍼灸・西洋医学的に捉えるとドライニードリングによるトリガーポイント療法も慢性頸部痛に対して痛み・機能・可動域・圧痛閾値を短期的に改善するという報告もあります。

物理療法は基本的には徒手でも運動でもできないような刺激を加えたり、より早く良い効果を促せるように活用できるとよいでしょうね。

ウェアラブルデバイスなど

近年の新しい発明としては、姿勢センサーを用いてリアルタイムに首の角度を評価し、利用者にフィードバックを与えるスマートデバイスも開発されているようです。

例えば、首の後面に貼り付けて内蔵の加速度センサーで頸部姿勢をモニターし、姿勢が乱れると小型振動モーターで「前方に倒しすぎ」「右に傾けすぎ」等のアラートを振動で与えるような形。

その他姿勢全体・身体的な負担の軽減について考えるとエクソスケルトンのような商品も一部役立つかもしれません。

また遠赤外線繊維のようなものを用いたリカバリーウェアも市場で増えてきているので、疲労回復を促すアプローチとしては活用できるかもしれませんね。

肩こりになる根本的な原因とは?

最後に肩こりはやはり身体的な問題だけでなく、精神面や普段の生活習慣、考え方による影響もあると思うので、根本的な原因を会話の中で探ってアドバイスできると良いかもしれませんね。

「こり=体からのメッセージ」と伝える

  • 肩が硬くなるのは、心が抱えた不満や緊張を体が代わりに語っている可能性がある。
  • 「その硬さは何を伝えたいのか、一緒に聞いてみましょう」と声をかける。

3つの視点で質問する

  1. 生活リズム — 「最近いつ休みましたか? 遊びの予定は入っていますか?」
  2. 仕事・役割 — 「完璧にやらなければ、というプレッシャーはありますか?」
  3. 本当の欲求 — 「実は我慢していること、後回しにしている楽しみはありませんか?」

このような質問をする中で、感情を言葉にできず“肩で表現”していないか、自分を責める「〜すべき」が口ぐせになっていないか、というような思考のクセを発見してあげるとよいかもしれません。

具体的アドバイス例

ここからはあくまで例ですが、肩こりに悩みがちな人の思考のクセに合わせてアドバイスしやすい言葉を紹介してみます。

  • 70%で良しとする:成果目標を少し下げても問題が起きないことを確認。
  • マイクロ休憩:30分作業したら2分だけ好きな動画・音楽・ストレッチ。
  • 身体と感情を結びつける:肩が硬い瞬間に「今、何を我慢した?」とメモ。
  • 頼まれごとの仕分け:すぐ応じる・あとで・断る——3色で分類し、断る練習を少しずつ。

まとめ

今回は肩こりについていろんな視点でまとめてみました。

日本国民は本当に肩こりで悩んでいる人が多いと思うので、セラピストとして少しでも困りごとを解決できるように日々の活動に活かしてもらえたらと思います。

参考文献・出典