腰椎椎間板ヘルニアの治療

腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインをもとに、疫学・発生機序・分類を押さえ、手術と薬物療法、自然退縮の仕組み、そしてセラピストが関わる保存療法と復帰の予後までを整理します。

以前も腰痛に関わるコンテンツはいくつか作っていますが、今回は腰椎椎間板ヘルニアに着目したものになります。あわせて腰痛に対する運動療法も読んでみてください。

主に腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインにある内容を簡単に要約しつつ、臨床現場に活きる情報をお伝えしていきますね。

腰椎椎間板ヘルニアについて

まずは椎間板ヘルニアについて理解を深めてみましょう。

疫学

腰椎椎間板ヘルニアに関する一般住民を対象にした研究はあまりなく、報告されているものを紹介するとまず徴兵制度のために調査された全19歳韓国人男性39673例におけるデータがあります。

そこでは237例に認められ0.6%でした。好発部位としてはL4/5・L5/Sになります。

他には台湾における保険記録(99%の国民が登録)や、スウェーデンにおける手術症例登録制度SweSpine、オランダにおける解析などでもおおむね1%前後のようです。

発生機序

椎間板ヘルニアはどのように定義されるかというと、椎間板の変性髄核が繊維輪を突破し、椎間板組織が脊柱管内に脱出、もしくは突出した神経の直接圧迫により腰痛や神経症状が出現したもの、と言われています。

また1989年にAAOS(American Academy of Orthopedic Surgeons)において4つのタイプに分類されています。

  • 髄核膨隆(intraspongy nuclear herniation)
  • 髄核突出(protrusion type)
  • 髄核脱出(extrusion type)
  • 髄核分離(sequestrated type)

椎間板ヘルニアの4つのタイプ(髄核膨隆・突出・脱出・分離)を断面図で示した分類図

診断

基本的な診断の流れは以下のような形が考えられます。

腰椎椎間板ヘルニアの診断フローチャート。問診・身体所見から画像診断へ進む流れ

腰椎椎間板ヘルニアの診断基準を示した表

今回は治療に関する話がベースなので評価に関しては深く触れませんが、椎間板ヘルニアのタイプによっていろいろな症状があるため、より理解を深めたい人は評価方法についても学んでいってもらえたらと思います。

腰椎椎間板ヘルニアの治療

ここからは様々な治療方法について紹介していきます。

手術

まず手術治療ですが、以下のようないろいろな種類があります。

  • 椎間板摘出
  • ヘルニア摘出
  • 髄核摘出
  • 固定術

腰椎椎間板ヘルニアは近年保存療法をとられることも多いですが、それでも改善しない場合手術適応になることがあります。

腰椎椎間板ヘルニアにおいて下肢の筋力低下は40〜82%の症例に見られますが、筋力低下が重篤な場合は筋力の回復は不良とされます。特に馬尾症候群(両下肢の疼痛、感覚障害、運動障害、膀胱直腸障害、会陰部の感覚障害)を示す場合は予後不良であることが多いです。

手術のタイミングに関しては明確な基準はないものの、筋力低下出現から48時間以内の早期手術群の方が回復は良好だったという報告があります。

薬物療法

未だ腰椎椎間板ヘルニア患者における疼痛と身体機能改善を目的とした薬物治療において特定の薬物の明確な有効性は示されていないものの、痛みの緩和を目的としていくつか用いられているものがあります。

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
  • 経口副腎皮質ステロイド
  • アセトアミノフェン
  • 三環系抗うつ薬

もしくは硬膜外ブロック注射のような局所麻酔薬を用いられることがあります。根本治療にはなりませんが、どうしても痛みが強く緩和する目的であれば有効な場合もありますね。

退縮

実は椎間板ヘルニアは特別な治療をせずとも自然に退縮することもあるんですよね。

椎間板ヘルニアが自然退縮する免疫学的機序を示した図。マクロファージの遊走と血管新生の流れ

まずMMP-7によりマクロファージから炎症性サイトカインであるTNF-αを放出する。その作用によりNF-κBやTWEAK、TSLPを介して基質分解酵素であるMMP-3やマクロファージを遊走するMCP-1の発現が亢進する。脱出したヘルニア塊の周囲にマクロファージが遊走され、MMP-3などの基質分解酵素や血管内皮増殖因子であるVEGFにより血管新生が起こり、ヘルニアが自然退縮すると考えられる。

細かい機序までは覚えておく必要はないと思いますが、自然に退縮する可能性があることは知っておくと良いでしょう。

腰椎椎間板ヘルニアの保存療法

ここからセラピストが考えることが多い保存療法に関する内容になります。

椎間板への負荷

まずは施術や運動指導以前に姿勢や動きによる椎間板への負荷を知っておくと良いと思います。

椎間板ヘルニアがそもそも椎間板への負荷が強くかかることで発生するわけなので、ヘルニアが発生した後の保存療法をする際も椎間板への負荷には注意した方が良いです。

姿勢別の椎間板内圧を比較したNachemsonの図。立位を100としたときの各姿勢の相対値

実際に椎間板ヘルニアが発生した際に痛みを感じるのはこのようなNachemsonの示す段階になることが多いので、生活指導をする際に参考にしてみてください。

運動療法(初期)

運動療法にも段階がありますが、椎間板ヘルニアに対するものとしてはマッケンジー体操がよく知られています。

マッケンジー法の代表的なエクササイズ(腹臥位での伸展運動など)を示した図

椎間板ヘルニアは腰椎が屈曲した状態で負荷がかかることによって生じることが多いため、大きな方向性としては腰椎を伸展させて椎間板への圧を減らしつつエクササイズを進められると良いでしょう。

また、慢性腰痛に対する介入研究を行う際に作成されたエクササイズ動画も参考になると思います。腰部を多方向へ動かすとともに、胸椎・股関節など周囲のコンディショニングも満遍なく行えるものになっているため椎間板ヘルニアの回復過程で用いる運動としてはちょうど良いかと思われます。

運動療法(中期)

ここからもう少し発展的な運動についても紹介していけたらと思います。

まずは体幹のインナーマッスルを鍛えるようなドローインというエクササイズを紹介してみますね。

そもそもインナーマッスルもしくはインナーユニットとも呼ばれることがありますが、こちらは腹横筋・多裂筋・横隔膜・骨盤底筋という筋肉群で構成されています。

ドローインの基本的な方法としては、このインナーマッスル・インナーユニットを収縮させるエクササイズですが、膝を立てた状態で仰向けに寝て、腹式呼吸で息をふーっと吐ききった時に収縮を感じやすいです。

ポイントとしては骨盤の上前腸骨棘から指3本分くらい内側に指を置いて、息をふーっと吐ききった時にくっと盛り上がる感じを感じられると上手く収縮できている感じですね(この時にアウターマッスルの腹直筋などに力が入りすぎないように)。

ちなみにインナーマッスルだけでなく、アウターマッスルも同時に力を入れて体幹を固めるトレーニングはブレーシングということもあります。

このドローインを基本として仰向けだけでなく、座位や立位でもインナーマッスルを収縮することができ、立ち上がる・歩くような運動中にもある程度活動がされていると、姿勢を安定できて椎間板ヘルニアの改善・予防には良いだろうと考えられています。

このあたりは最終的に目指す復帰の形によって変わってくると思うので、本人の要望も聞きつつトレーニングを組み立てていけると良いですね。

職場・スポーツ復帰

最後に予後に関することになります。

まず手術治療群の職場復帰に関しては、術後3ヶ月44.4〜100%、1年で72〜89.9%、8年で82.5%であったと報告されており、さらに保存療法と手術治療に関する米国の前向き研究では両者に差がなかったようです。

またスポーツに関して、プロスポーツレベルにおいては保存・外科治療ともに約80%以上であることも報告されています。

また復帰時期に関して一般的なスポーツ復帰は2〜3ヶ月程度、アスリートの競技復帰は1ヶ月〜2.4年とスポーツの種類にもよるので幅が広い形になっています。

このように予後に関してはそもそも椎間板ヘルニアがどんな種類だったのか、どんな症状が起きたのか、どんな治療法を選択したのか、復帰後に求めるレベルはどのくらいか、にも影響するので、あまり明確な数値は示せないので目の前のクライアントの様子を見ながらアドバイスしてもらえたらと思います。

参考文献・出典