痛みを感じる仕組みから腰痛を再考する

侵害受容器から大脳皮質までの痛みの伝導路をたどり、椎間板・椎間関節・筋筋膜それぞれがなぜ痛むのかを整理したうえで、特異的/非特異的/心因性という腰痛の分類を考えます。

腰痛に対する運動療法では腰部の解剖や運動療法についてまとめましたが、今回は“痛み”というものについて深掘りしながら考えてみようと思います。

腰痛を抱えているクライアントと出会う機会はセラピストとして活動していると多いと思いますが、改めて理解を深めることで日々の臨床業務に深みをつけてください。

痛みを感じる仕組み

痛みを考えるにあたって、まずはその言葉の定義を確認してみましょう。

実は2020年に、国際疼痛学会というところで41年ぶりに「痛みの定義」が改訂されています。

原文 An unpleasant sensory and emotional experience associated with, or resembling that associated with, actual or potential tissue damage.

和訳 (痛みは、)実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する、あるいはそれに似た、感覚かつ情動の不快な体験

ということで、リアルな組織損傷がなくとも「痛み」という感覚が起こりうる可能性も含まれています。

この記事の後半でも心因性の腰痛に触れますが、普段から必ずしも組織損傷がなくとも痛みの訴えがあるということを念頭において臨床業務をおこなっていってもらえたらと思います。

ただ、実際に組織損傷を伴う痛みがあるのは事実なのでまずはその仕組みを紹介していきますね。

体にはいろいろな受容器があって、そこに刺激が加わると痛みを感じます。そしてこの受容器は2種類あって、高閾値機械受容器とポリモーダル受容器というものがあります。

高閾値機械受容器は、侵害性(身体に害を及ぼすような)の強い機械的刺激が与えられると興奮しますが、弱い機械的刺激では興奮しません。

一方ポリモーダル受容器は侵害性・非侵害性にかかわらず、機械的刺激、熱刺激(43℃以上の高温と15℃以下の低温)、傷害によって組織内に生じるプロスタグランジンやセロトニン、ブラジキニンなどの発痛物質による刺激が与えられると興奮するという特徴があります。

腰痛について理解するときも、痛み自体はこのような受容器で受ける刺激からくるものなのでまずはここを理解しておくと良いでしょう。

受容器で刺激を受け取ると、高閾値機械受容器から受けた刺激はAδ繊維を通って、ポリモーダル受容器から受けた刺激はC繊維を通って伝導していきます。

この刺激は脊髄後角を通って中枢へ向かい、脊髄ー視床路という経路を通って脳の視床細胞というところに到達します。そして視床細胞から興奮が大脳皮質へ伝えられて痛みとして認知される形になっています。

よって痛みをコントロールするには、受容体、刺激を伝導する神経、脊髄、脳、いずれかに対してアプローチをする必要があるということをここでは知っておいてもらえたらと思います。

腰部周辺で痛みを感じる仕組み

ここでは腰部周辺の構造について共有していきますが、腰に痛みを感じる要因となることが多い椎間板、椎間関節、筋筋膜について情報をまとめていきます。

椎間板

椎間板はご存じの通り、脊柱の椎骨と椎骨の間にある組織になります。

椎間板は外縁部分を構成する線維輪という靱帯様の構造物と、中心部に含まれる軟らかい髄核という構造物から成り立っていますが、痛みを感じる部位はどこにあるでしょうか?

実は椎間板自体にはもともと痛覚の受容体がありません。

しかし、変性した椎間板の線維輪内には感覚受容器のあることが確認されています。

つまり椎間板が何かしらの刺激で損傷し、それを修復する過程で神経繊維が伸びてきて痛みを感じるように変化していくわけですね。

よって椎間板性の痛みを減らすためには、まず変性を起こさないための予防が重要になることがここからわかります。

ただ、椎間板の外側面と後面を補強している後縦靭帯には感覚受容器があることが確認されています。

よって椎間板ヘルニアのような椎間板が潰れて後方に飛び出るような状態になると大きな痛みを伴うのは椎間板自体だけでなくこのような組織の影響もあるわけですね。

椎間関節

続いて椎間関節ですが、椎間関節の関節包には痛覚伝達に関与する神経繊維や感覚受容器が豊富に存在すると報告されています。

椎間関節における侵害受容器の比率は30%であり、これは関節周囲組織における比率(3%)の10倍にも及ぶと言われているので、椎間関節が周囲組織に比べて痛みの発生源になりやすいことを示唆しています。

椎間関節への機械的負荷を増加させる因子としては、腰椎の過伸展時に椎間関節と下位椎体の椎弓間では荷重が急激に増加します。

これによって脊柱上に痛みを感じることがあるわけですね。

また腰椎の椎間関節は回旋方向の可動性が小さいため、椎間関節に炎症がある場合回旋方向に動かした時にも痛みを生じることもあります。

姿勢や体幹のリハビリテーションをおこなう時は腰椎の可動性は特に理解しておくと良いでしょう。

筋・筋膜

また、腰部には多種多様の筋・筋膜がありますがこれらが原因で痛みを感じる場合もあります。

筋繊維自体もしくはその筋肉を覆う筋膜の損傷、それ以外にも筋硬結や他組織からの圧迫による虚血によるものなど、痛みを感じる場合もさまざまなものが考えられますね。

腰部周辺には腰方形筋、脊柱起立筋、多裂筋、胸腰筋膜などさまざまな軟部組織があるので腰に痛みを感じる場合特定の組織だけでなく複数の要因が絡みあうことも少なくありません。

先ほどの椎間板・椎間関節であれば脊柱上に痛みを感じますが、筋・筋膜であればそれ以外のさまざまな部位で痛みを感じることが多いので腰部の解剖を理解して原因を推測できるように勉強していってもらえたらと思います。

腰痛の分類

ここから腰痛についてより深く理解を深めていってもらえたらと思いますが、まず腰痛は大きく特異的腰痛と非特異的腰痛に分けられます。

下肢の神経学的徴候や骨折、感染、腫瘍など、原因が特定できるようなものを特異的腰痛と言い、全体の15%程度であるという報告があります。一方で神経症状や重篤な基礎疾患を有しておらず、画像診断と一致しないものを非特異的腰痛と言い、残りの85%程度がこちらになります。

特異的腰痛

特異的腰痛はレントゲンやMRI、血液検査など各種評価によって診断がつくタイプの腰痛になりますが、こちらはいわゆるRed Flagと呼ばれることもあります。

そのサインは以下のようなものがあるので、ぜひ頭に入れておいてください(2019年腰痛診療ガイドライン)。

・発症年齢が20歳未満、または50歳以上の腰痛 ・時間や活動性に関係のない腰痛(安静時疼痛) ・胸部痛 ・がん、ステロイド治療、HIV感染の既往 ・栄養不良 ・体重減少 ・広範囲に及ぶ神経症状 ・構築性脊柱変形(側弯症や後弯症) ・発熱

このようなサインに当てはまる場合、脊椎圧迫骨折、腫瘍、感染症、大動脈疾患のような疾患によって腰に痛みを感じている場合があります。

今回の記事では基礎的な痛みの仕組みから腰痛についての理解を深めていますが、このような重篤な疾患も裏に潜む可能性はぜひ知っておいてください。

非特異的腰痛

続いてこちらがセラピストとして関わることが多いタイプの腰痛かと思いますが、非特異的腰痛の中にも様々な種類があります。

まず組織としては、今回挙げた椎間板や椎間関節、筋・筋膜によるものが多く、脊柱上であれば椎間板や椎間関節、棘上靭帯のような軟部組織の損傷によるもの、それ以外の部位であれば他の筋・筋膜、というように部位によってもある程度痛みの原因を推測することができます。

その他にも前屈・後屈・回旋など運動時に痛みがあるかということも原因を推測する因子となり、先ほどの部位と組み合わせると少しずつ痛みの原因を探る精度が高まっていきます。

何かの治療・介入をおこなう時もこのような評価がしっかりできているとアプローチを間違えにくいですし、試行錯誤もしやすくなるのでぜひ理解を深めていただけたらと思います。

心因性

冒頭の痛みを感じる仕組みのところでもありましたが、腰痛の原因として心因性と呼ばれるような心理状態が影響するものも中にはあります。

腰痛に心の状態が関わっているかを評価するツールとしては、イギリスのKeele大学というところで開発されたSTarT Backスクリーニングツールというものが有名です。

Keele STarT Backスクリーニングツールの質問項目一覧

特に後半部分に当てはまることが多い人は、心が原因で腰痛を感じている可能性が高くなります。

実際の損傷がなくても痛みを感じる場合もありますがそれはなかなか判断がしにくいので、まずは実際の損傷がある場合を考えてみますが、この時には“中枢性感作”というものが起こっていることがあります。

中枢性感作とは、痛みの感覚受容器のような末梢から大脳へ伝わる際に伝導路である中枢神経系において刺激が増幅される現象を言います。

よって本来よりも痛みを強く感じてしまうことがあるわけですね。

他にも恐怖回避モデル(fear-avoidance model)というものがあって、痛みが起こったことによって更なる悪化を引き起こし、慢性化してしまう可能性があるものです。

具体的には痛みが起こったことによって怖さを感じ、痛みが起こらないような動作を続けることでさらに機能が低下、それによって痛みが悪化してしまうというような流れです。

このような心理的な状態が痛みに影響する場合もあるので意識しておいてもらえたらと思います。

まとめ

日々の臨床の中で痛みを抱えるクライアントと関わる機会もあると思いますが、なかなか時間がなくて表面的な生活・運動指導や、施術になってしまうこともあると思います。

今一度痛みについての理解を深めて、目の前のクライアントの体の状況を見直すきっかけにしてもらえたらと思います。

参考文献・出典