エビデンスを基にした治療方針の意思決定

エビデンスレベルやEBM・NBM・SDMといった意思決定の枠組みを整理し、VASやODIによる結果評価、統計的な有意差の考え方まで、臨床にエビデンスを組み込む方法を解説します。

これまでいろいろ情報共有してきましたが、自分のまとめるものは可能な限り論文で発表されたものなど科学的なエビデンスを基にしてきました。

臨床としてクライアントに直接関わる時は、相手の感情やその時の状況に応じて対応することが多いため全てがエビデンスを基にするわけではないと思いますが、自分の施術について説明をするときなどはやはりエビデンスを基にしていると信頼感が増すと思います。

今回は改めて論文などをどう調べたら良いか、どうやって解釈して普段の活動に取り入れていったら良いか、というような部分をまとめてみようと思うので、ぜひ今後の活動に活かしてみてください。

エビデンスを基にした意思決定とは?

そもそも今回のテーマにある意思決定というものについてですが、普段クライアントに話す言葉や施術の内容を含めて自分が行うことは何かしらの情報を基に意思決定をしている、と捉えられます。

クライアントから「どうしてその施術をするんですか?」と聞かれた時に、「なんとなく」という感覚的な返答だったらやはり不安になりますよね。

何かしらのアプローチをするからにはやはり理由の説明ができた方が良く、それが何かしらのエビデンスに基づいたものであれば信頼性が高くなるのでエビデンスというものはやはり重要なわけです。

エビデンスレベル

以前もお伝えしたかと思いますが、世の中にあるエビデンスにはレベルがあります。特に医学的な研究は以下のような段階に分けられるのでまずはこちらを頭に入れておいてください。

エビデンスレベルの段階を示すピラミッド図

何かしらの治療方針を決めるときにエビデンスを参考にしようと思ったら、まずは1番上のシステマティックレビューやメタアナリシスというようなものを意識すると良いですね。

Cochraneというプラットフォームで調べると検索しやすいので活用してみてください。

ちなみに以前紹介した鍼治療と頭痛に関するエビデンスもこちらで調べることができます。

ただ現場の臨床業務において全てをエビデンスに基づいて行うわけではないですよね。

ここからもう少し深掘りして、Evidence Based Medicine(EBM)についても触れてみようと思います。

Evidence Based Medicine(EBM)

医療に携わる中ではこちらの言葉もよく聞く機会があるでしょう。

まずは厚労省から出ている資料でわかりやすく図にまとめられているので、こちらを共有します。

EBMにおいて根拠(エビデンス)に加え、患者の価値観や利用可能な資源を考慮する必要があることを示す図

左上の根拠の部分がいわゆるエビデンスで、それ以外に価値観や資源を考慮することも重要、ということですね。

やはりクライアントが望むことを意識することは必要ですし、活用できる時間や機材によってもとれるアプローチは変わってきます。

エビデンスについては理解を深めつつ、現場ではこのような他の要素も意識できると良いですね。

Narrative Based Medicine(NBM)

こちらはちょっと聞き馴染みがない言葉かもしれませんが、治療方針の決定の方法としてNBMというものもあります。

Narrative=ナラティブ、とは物語というような意味になりますが、クライアント個人の体験や関心に意識を向けるような意識を強めた方法ですね。

EBMという言葉だとやはりエビデンスを重視し過ぎる傾向もあって、それはクライアントにとっては負担に感じることも現実的にあったことでもう少しクライアントへの寄り添いを強めた意思決定の方法になります。

NBMを意識した取り組みとして、DIPEx(database of individual patient experience)というものがあり、患者の体験を記録したデータベース作りなども進められています。

1人で非常に多くの方を対応する場合はなかなか全ての人の話をしっかり聞くことが難しいかもしれませんが、少人数であれば相手の状況に合わせてうまく治療方針を決めていけると思うのでこのような考え方も参考になるでしょう。

Shared Decision Making(SDM)

小難しい言葉が続きますが、最近けっこう注目されてきているSDMというものも紹介しておきます。

こちらはインフォームドコンセントという言葉とも近い考え方ですが、セラピストとクライアントが可能な限り意思決定に必要な情報を共有して一緒に治療方針を考えていく、というようなものですね。

こちらのSDMの実践には9つのステップがあると考えられています。

  1. 意思決定に関与する必要性を共有すること
  2. 意思決定の過程において対等なパートナーであると認識すること
  3. 可能な全ての選択肢を同等のものとして述べること
  4. 選択肢のメリット・デメリットの情報を交換すること
  5. 医療者が患者の理解と期待を確認すること
  6. 患者の好みを特定すること
  7. 選択肢の合意に向けて話し合うこと
  8. 決定事項を共有すること
  9. アウトカムを評価する時期を調整すること

かなりカチッとした言葉になっていますが、これらのステップを意識しながら会話を進めていくと良い意思決定に繋がっていく可能性が高まるでしょう。

特に複数の選択肢があってアプローチに迷う場合はこのようにしっかり話し合った上で方針を決められるとトラブルを回避できると思います。

最後に「アウトカムを評価する」という言葉が出てきましたが、こちらが研究においてはかなり重要で、臨床においても意識できると効果が変わってくるでしょうね。

これ以降ではもう少し結果の評価の方法についてお伝えしていきます。

結果の評価方法

体の悩みに対して何らかのアプローチをする場合は、やはり結果として良い変化を起こすことが重要です。

そこで単に「良くなった」という言葉で終わらせず、「何が、どのくらい、どのように良くなった」というあたりを共有できるとさらに効果を実感できるようになるはず。

今回は自分の行った腰痛の研究を例に挙げながら評価の方法を解説してみようと思います。

数値変化の考え方

例えば腰痛に関して何らかの治療をして良くなったとしましょう。

その時に「良くなった」という言葉だけでは、ちょっと曖昧な感じがしますよね。

そこで1つの手法はVAS(Visual Analog Scale)というもの。

これは0:全く痛くない〜10:想像しうる最も強い痛み、というような感じで痛みを評価ができます。

VAS(Visual Analog Scale)による痛みの評価尺度

例えばもともと8くらいの痛みだったのが、施術によって4まで下がったということであればけっこう改善した感じがしますよね。

腰痛の評価の指標には他にもいろいろあり、有名なものとしてはOswestry Disability Index(ODI)というものもあります。

これは各動作によって腰の痛みをどのくらい感じるか、ということを聞いて生活の中での痛みの程度を総合的に評価するもの。

Oswestry Disability Index(ODI)の質問票の例

Oswestry Disability Index(ODI)の採点方法の例

このような指標を使うと先ほどのVASよりは詳しく腰痛の状況を評価することができますよね。

研究ではこのように体の症状をうまく数値化することによって変化をわかりやすくして、効果がある治療法はどんなものなのかというのを明らかにするわけです。

有意な差があるかどうか(統計)

ここで、研究においては統計的な処理をして有意な差があるのか、ということを検証することが重要になります。

例えば何らかの治療法をして、1人はVASが8→4まで下がったのであれば効果があったように感じますが、他9人に行った時にほとんど変化がなければその治療法の効果は少しあやしくなりますよね。

また、同じような程度の腰痛の人を集めてきた時に何らかの治療法を行うことによって平均が8くらいあった痛みが5程度まで下がったのであれば効果がありそうに見えますが、同じような人を集めてきた時に自然経過によって同じくらい痛みが減ってきたのであれば本当に治療に効果があったのかあやしいですよね。

このように複数の治療法などを比較した時に、統計をして有意な差があれば効果がある可能性が高い治療法を見つけることができます。

例として自分が大学院で行った研究では、3ヶ月以上続く慢性的な腰痛がある人を集めて片方の群では運動療法のみ、もう片方の群では運動療法+温熱療法(CRet:Capacitive Resistive electric transfer:容量性抵抗性電位法)を行うことでそれぞれの腰痛がどう変化するか、ということを検証しました(論文はこちら)。

こちらにおいて統計処理をした時に、運動療法のみでも腰痛改善効果が見られ、温熱療法も加えることでさらに良い改善効果が見られたので、CRetという治療法が有効となる可能性が示唆されたわけです。

研究というのはこのような感じで効果があるもの、あまりないもの、についていろんな検証を行っているので、ぜひ論文の結果を参考にして臨床に落とし込んでいってもらえたらと思います。

臨床にエビデンスを組み込む

それでは普段の臨床にどうやってエビデンスを組み込んでいったら良いか、ということをこれから考えてみましょう。

仮説を基にエビデンスを調べる

まずは対象とする疾患や、アプローチの仮説を考えていくことが重要です。

例えば腰痛を例にした時に、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のような疾患を対象にするのか、筋筋膜性腰痛のような非特異的腰痛を対象にするのかによっても調べ方が違ってきます。

例えば非特異的腰痛についてのエビデンスを先ほどのCochraneなどで調べてみると、治療方法としては徒手や運動、各種物理療法など様々なアプローチがありますが、この中でも運動療法・温熱療法に関してはエビデンスが高いのが分かってきました。

ただこれだけでは、どんな運動がいいの?温熱療法はどんな機器を使えばいいの?というところまでは分からないので、より深掘りして調べていきます。

そうすると運動療法としては、腰痛の状況に合わせて複数のエクササイズを組み合わせたり、温熱療法に関しても様々な種類があるので状況に合わせて選択する必要性が見えてきます。

そこから実際の臨床では、冒頭で挙げたEBM・NBM・SDMのような手法を意識してクライアントの状況に合わせて相談しながら治療法を選んでいけると良いですね。

試行錯誤→検証する

そして現場においてはエビデンスを基にしつつも、クライアントの状況を考慮して試行錯誤をしていきます。

ここで言葉で良くなったかどうか聞くだけでなく、何かしらの数値的な指標で評価できるとより良いですね。

そうすることで自分のアプローチで本当に効果が出たのか、また複数で治療院を運営しているのであれば人によって効果が違うのかどうか、なども明らかにすることができます。

そしてその様子を見ながらより良いアプローチを選択していけると、クライアントにとっても良いでしょうね。

また、医学は日進月歩で今でも全く完璧ではありません。

どんな研究にも限界があって、まだ治療法が確立していない疾患もあるわけなので自分が臨床活動を進めていく上で新しいアプローチのアイデアを見つけていける可能性もあるでしょう。

その際には自分で研究をして新たにエビデンスを作っていく、ということまでできたらそれはまた臨床で目の前のクライアントに価値を提供するのとは違った仕事の仕方になってきます。

ぜひ今回学んだエビデンスに関する知見を参考にして、今後の活動に活かしてもらえたらと思います。

参考文献・出典