セラピストとして働く中でクライアントから肌・皮膚に関する悩みを相談される機会もやはりあると思います。
また鍼のような物理療法を行う際にも皮膚に対して刺激を加えることもありますし、改めて皮膚についての理解を深めることにも意義があるでしょう。
今回は皮膚の科学ということで、皮膚の構造や仕組みについて共有できたらと思うので、勉強してみてください。
皮膚とは?
皮膚は体全体の表面を覆う組織で、人体最大の臓器と呼ばれることも実はあります。
具体的に成人では重さは約9kg、面積は約1.6㎡で、畳1枚分ほどの面積があります。
また例えば他の臓器を考えた時に、胃を全摘出しても、肝臓を半分切り取っても命に別状はないですが、皮膚は3分の1を火傷で失うと体液の流出で死んでしまう。
このような例からも皮膚は生きる上で重要な組織であることを改めて感じますよね。
ここで皮膚の主要な働きについてまとめてみます。
①水分の喪失と透過の防止 ②体温調節 ③知覚感覚 ④微生物、化学物質、紫外線からの防御 ⑤排泄機能
このように皮膚には様々な機能があります。
それではここからは皮膚の構造についても見ていきましょう。
皮膚の階層構造
皮膚は、皮下組織と呼ばれる脂肪層を覆う表皮と真皮の2つの層からできています(表皮と真皮に、皮下組織、そして毛器官、汗腺、脂腺、爪の皮膚付属器も含めて皮膚と呼ぶ場合もある)。

表皮は主にケラチノサイト(角化細胞)という細胞からできていて、このケラチノサイトが分裂すると、最も内部にある基底層からより表面の層に移動し、1番外側の角質層に到達すると、垢となって外部に放出されます。
この代謝のプロセスは「ターンオーバー」と呼ばれ、通常では表皮は28日の周期で再生を繰り返す仕組みになっていますね。

一般的にこの皮膚・肌を良い状態に保つためには、保湿・紫外線対策・ターンオーバーの促進が重要だと考えられていて、美容のためには様々なクリームなどがあるのが現状になります。
ここからエビデンスに基づいた皮膚・肌を良い状態に保つためのコツについて紹介していきますね。
スキンケアの本質
Journal of Clinical Investigationにおいて発表されたスキンケアにおける結論は以下のように示されています。
「日焼け止め、保湿剤、レチノイド(ビタミンAの誘導体)を使い、エステで言うことにまどわされないこと。天然の成分だからと言って有効だと思わないこと。民間療法で肌を痛めないこと。そして、化粧品会社の派手な宣伝や高価格の商品に誘惑されないこと」
美容業界は大きなお金も動くので各社からいろいろ新しい成分が入った商品が出てくることもありますが、その中で本当に効果があるものは一部。
専門的なセラピストは特に科学的な知見を意識して、正しい情報を届けられるとより信頼度が高まっていくでしょうね。
保湿剤の使い方
保湿について、面倒なことを考えなければワセリンはかなりおすすめだと考えられています。
お風呂から出て5分以内に少量のワセリンを顔全体に塗れば多くの人は問題ないと考えられています。
その理由として、保湿の目的は表面から浸透させた水分を油脂が閉じ込め、皮膚が乾くスピードを遅くすることだから。
とは言え、ワセリンも万能であるわけではなくニキビ・ドライスキン・脂性など肌質によって保湿剤を変える必要性が出てくることもあります。
ドライスキンの場合は肌を軟化する作用(セラミド、カプリル酸グリセリルなど)があるもの、脂性の場合はさらっと使える給水系(ヘパリン類似物質やヒアルロン酸など)、敏感肌の場合は刺激が少ないもの(セラミドやニコチン酸アミドなど)を選ぶと良いでしょう。
日焼け止めの使い方
日焼け止めにおいて重要な指標はSPF(紫外線の防止効果)。
SPFに関する研究データはいろいろ出ていて、ものによってはSPF値の違いによって紫外線のブロック率は大差がないという研究もあるんですが、やはりSPF値が高い方が紫外線の肌への通過量は減るという結果もあるため、SPF値については高いものを選ぶのが無難でしょう。
使い方としては重ね塗りがおすすめです。
まず太陽の光を浴びる15〜20分前に塗り、2時間おきくらいに塗り直すのがベストになります。
1回厚めに塗っただけよりも紫外線を防ぐ効果が2.5倍も強くなる、というデータもあるくらいなので意識できると良いですね。
レチノールの使い方
レチノールは様々なメリットがあると考えられています。
・シワを減らす ・肌の色素沈着を減らす(シミなど) ・ニキビを落ち着かせる ・皮膚のコラーゲンを増やし、表皮を厚くする ・角質層を改善して若々しい肌にする
美容を意識している人にとっては非常に魅力的な言葉が並んでいますね。
これはレチノールに肌のターンオーバーを促す作用があるからです。
ただレチノールは使い方によって以下のようなトラブルが起こる場合もあります。
・肌への刺激が強いため、ヒリヒリ感や火傷のような症状になることもある ・ターンオーバーがいきすぎて、カサカサした肌になる可能性がある ・肌が弱い人の場合は赤みが残ってしまうこともある
このように効果が高いものは、逆に副作用も大きく出てしまう場合があるので実際に使うときは注意が必要ですね。
レチノールには様々な濃度のものがありますが、最初は0.3%のものから試すのがおすすめとされています。
もしこれでも違和感があるときは皮膚科で0.05%レベルのものを処方してもらうこともできると思うので、そちらを試すのも良いでしょう。
使用方法の例をまとめると以下のような形になります。
- 洗顔後にオイルを塗って数分ほどおく
- 肌から水分が飛んだら、グリンピースの半分くらいのクリームを均一に塗る
- とりあえず2〜3日はおいて異変が出ないか様子を見る
- 何も問題がなければ①肌に直接塗る②レチノールの量を増やす③塗るタイミングを縮める、といったやり方を試してベストな方法を見つける
というような感じでエイジングケアを進めていくと良いでしょう。
鍼灸と皮膚科学
さて、少し話題は変えて鍼灸と皮膚の関連性についてもここで取り上げてみようと思います。
東洋医学では皮膚への何らかの刺激によって全身の疾患を治療することが大きな方法論となっていて、鍼灸はその中でもよく用いられるものでしょう。
東洋医学で考えられる「つぼ」「経穴」「経絡」などはまだ西洋医学的に解明されていない部分もありますが、『The Body Electric』を書いたBeckerという研究者は経絡の間に特異的な電気抵抗があるというような報告をされているものがあります。
また、皮膚にはイオンポンプというATPの流れを生み出す仕組みがあってそれによって皮膚表面には電位差があるという研究もあります。
そして皮膚の表面電位が感情や気分によって変化したり、アトピーでも電位差がある、そして外から皮膚に電気をかけると肌のバリア機能の回復が促進されたというような実験もされているとのこと。美容鍼灸などの領域において肌への影響を調べるのはこのような理論を考えていくと説明をしやすくなっていく可能性はありますね。
皮膚と脳の関係
皮膚は例えば心臓や胃腸のように何かをしていることは直接感じられないものの、実はさまざまな刺激を受け取ってホルモンを放出したり、逆にホルモンの影響で肌質が変化したりすることで変化を起こしているのです。
先ほども少し話題に上がった感情や気分によって変化するということも、ストレスホルモンとして知られているCRH(コルチコトロピン放出因子)やサブスタンスPのようなものを皮膚切片の入っている培養液に入れると、電位が変化する様子が見てとれました。
カロリンスカ研究所のフォルスリンドという研究者の実験において、正常な皮膚ではカルシウムイオンが角質の直下に高濃度で分布しているのに対し、アトピー性皮膚炎や老人性乾皮症ではカルシウムイオンが表皮に一様に分布していることが示唆されました。
このようにストレスや何らかの疾患、老化によって肌の電位異常が起きている際に、鍼灸やその他電気刺激によって電位を正常化すると肌質が改善する可能性があるのはこのような機序も考えられるわけです。
皮膚・肌へのアプローチを考える時はこのようなミクロな変化もイメージできるとより深く説明できたり、介入の幅も広がってくると思うので参考にしてみてください。
皮膚運動学
また、皮膚は運動にも関与する可能性が考えられます。
運動における皮膚の影響を理解できると徒手やテーピングなどを用いて、可動域をコントロールしやすくなるのでぜひ理解を深めると良いでしょう。
皮膚運動の原則
ここで言葉だけではなかなか理解が難しいものの、皮膚運動の原則と呼ばれるものを5つ紹介しておきます。
原則1:シワができると、さらにシワが深くなる運動は抑制される。伸長された皮膚の部位は、さらなる伸長方向への運動は抑制される。
原則2:伸長されている部位を弛緩すると伸長方向への運動が大きくなる。また、弛緩部位が伸長されると弛緩方向への運動が大きくなる。
原則3:皮膚の運動方向は関節の骨運動と連動し、骨どうしが近づく運動では皮膚は関節から離れる方向へ動き、骨どうしが遠ざかる運動では関節に近づく。また回旋運動では同方向へ動く。
原則4:皮膚は浅筋膜層で筋との間に滑走がある。そのため、皮膚の緊張線を張力の強い方向へ誘導すると身体内部との中間位が変化し、運動に影響を及ぼす。
原則5:身体運動では特定部位の皮膚が伸長あるいは弛緩する。伸長しにくい部位は特定の運動方向に影響を及ぼすが、その部位が伸長できると身体運動全体が大きくなる。
この原則を理解しておくと徒手やテーピングを用いた皮膚へのアプローチの幅がかなり広がってきます。
例えば原則1に関して、肩関節を屈曲することを考えると屈曲するに従って肩峰上部には皺ができて、肩関節後面の皮膚は伸長されて徐々に肩関節屈曲方向の運動が制限されていく。
この場合は原則2を用いてあらかじめ肩関節後面の伸長されていく皮膚の部分を弛緩させておくと肩関節の屈曲が起こりやすくなる、というような感じで原則1・2を考慮したアプローチができるようになります。
原則3も似たような構造ではありますが、例えば膝を屈曲する動きを考えた時には膝の裏側だと骨と骨が近づく運動になるので皮膚としては弛んで関節から離れる方向に動くことになる。
よって原則1・2・3はそれぞれ関連性が高い内容になりますね。
原則4は少し分かりにくいんですが、例えば体幹の回旋運動を考えた時に右回旋の動きをするとそれにつられて胸部・腹部・背部の皮膚も引っ張られていく。
そこで事前にテーピングなどを用いて回旋運動をしたら引っ張られる方向に皮膚を誘導しておくと体幹の回旋運動はより大きく動いたり、少ない努力で動かせるようになる。
これをつまり中間位が変化したと捉えられる、ということが原則4で伝えていることになります。
最後に原則5ですが、体幹の前屈をイメージした時に脊柱の可動性によって皮膚がよく伸びる部分とあまり伸びない部分があるはず。
そこで皮膚があまり伸びてない部分をあらかじめ徒手などで伸長させておくと体幹前屈の可動域が伸びる可能性がある、というようなものが原則5になりますね。
こんな感じでこれらの原則を体中の全ての関節に応用すれば皮膚へのアプローチで体の動きをある程度コントロールしていける可能性があるので、そのベースとして原則を覚えておけると良いんじゃないかと思います。
まとめ
今回は皮膚に関して、その構造やスキンケアの方法、またもう少し発展した皮膚のミクロな電位差や運動に関する影響などをまとめてみました。
皮膚は考えていくとけっこう奥が深く、セラピスト活動にも密接に関わってくる組織になるのでこれを機に理解を深めてもらえたらと思います。