今回は姿勢について深掘りしてみようと思います。
セラピストとして臨床の仕事をしているとよく姿勢へのアプローチをおこなうことがあると思いますが、姿勢は非常に奥が深いものです。
セラピストとしてはやはり解剖学的な構造について考えることが多いですが、姿勢制御には感覚的な刺激も影響してきます。
改めて姿勢に影響する様々な要素を知ることで、より多様な姿勢へのアプローチができるようになるでしょう。
ぜひ今回は姿勢に関する知見を深めてください。
脊柱の安定化機構
まずは姿勢のベースになる脊柱を安定化する全体的な仕組みについて。
Panjabiという研究者が提唱した概念では、3つのシステムによって脊柱を安定させていると考えられています。
- 受動的システム
- 能動的システム
- 神経的システム
まずそれぞれについてざっと説明してみますね。
受動的システム
受動的システムは脊柱・椎間関節・椎間板・靭帯・関節包・筋などの張力によって姿勢を調節するもので、セラピストにとっては1番馴染み深いものかもしれません。
脊柱だけでなく姿勢全体で見た時にも、下肢から体幹に加えて上肢の骨・筋などの組織が影響してきますね。
能動的システム
能動的システムは筋および腱などの作用で、先ほどの受動的システムとは少し違い意識をして姿勢を変えるような仕組みになります。
このあとの神経的システムや感覚情報も影響するところではありますが、重心の位置や筋の伸長度合いなどに応じて筋張力を調整して姿勢を整えるものになりますね。
神経的システム
神経的システムは靭帯や筋・腱の受容器からの情報と視覚・体性感覚など神経系の制御によるもの。
これらが複雑に絡み合って姿勢を形作っているので、解剖学的な特徴だけでなくより幅広く捉えてアプローチに幅を広げてもらえたらと思います。
普段セラピストとして勉強をする中では受動的・能動的なシステムについて学ぶことが多いと思うので、今回はあえてそれ以外の神経的システムをまず深掘りしてみようと思います。
3つの感覚情報に基づく姿勢制御
先ほどの神経的システムについてもう少し深掘りしていくと、大きく3つの感覚情報が姿勢に影響することが考えられています。
- 視覚
- 体性感覚
- 前庭感覚
普段は視覚による影響が大きいかもしれませんが、例えば暗闇の中では視覚よりも体性感覚や前庭感覚の重要度が増す、というように状況によってこれらの影響は変わってきます。
それではそれぞれの特徴を見ていきましょう。
視覚による姿勢制御
目をつぶって立っている時は、目を開けて立っている時よりも姿勢がぐらつきやすくなることからも分かるように視覚は姿勢制御に影響しています。
ただし、視覚情報の入力があってから筋肉の応答が表れるまでにはおよそ数百ミリ秒という比較的長い時間がかかるため、スリップして急激に崩れたバランスを立て直すような場面には向いていません。
むしろ、視覚情報は立位姿勢を長く保っている場面での微調整に使われている、という方が向いていますね。
ここで少し新しい言葉を紹介しますが、姿勢調節を引き出している視覚刺激のことをオプティックフロー(光学的流動)と言います。
例えば立つことを覚えたばかりの1歳児に対して、前から壁のような大きいものが動いてくるのを見た時に尻もちをついて倒れてしまうというようなケースがあります。
大人になるとこのような視覚情報が入っても転ぶまではいかないものの、姿勢の揺れなどが生じることはありますし外部環境によって姿勢に影響を与えるかもしれない、ということが考えられますね。
そして高齢者において転倒の危険性が高い人は、視覚情報の変化に弱いという指摘もされています。
関わる対象によると思いますが、視覚情報を考慮することでリスクを減らしたり、逆にトレーニングに活用できるかもしれないのでこれを機に意識してみてもらえたらと思います。
体性感覚と姿勢制御
体性感覚は主に表在感覚(皮膚感覚)と深部感覚に大別されます。
表在感覚は皮膚の機械的変化(触覚や圧覚)や温度の情報、および痛み刺激の有無を検知するものです。
一方深部感覚は、筋紡錘や腱受容器、関節受容器といった受容器を通して位置や運動、力感覚を検知するものです。
立位姿勢をとっている時は、足底が唯一地面と接している部位であり、多数の受容器が存在しているので立位姿勢を考えた時には重要な器官になりますね。
例えば立位姿勢をとっている時に、体重によって皮膚が変形するので表在感覚への刺激が入る、また立位の状態で前後左右などに体重を移して重心が動いた時は筋が伸長されるような刺激が深部感覚に加わるという感じです。
下肢の体性感覚が立位姿勢制御に及ぼす影響を調べる代表的な方法として、阻血や冷却(アイシング)によって体性感覚情報を利用しにくくする、というものがあります。
このような実験を通して、下腿部の阻血やアイシングによって姿勢の動揺性が増すような結果になっていることから、もしかしたら冷え性のような症状がある人は姿勢の調整もしづらい状況になっていることも考えられます。
そうなるといかに良い姿勢をとれるように柔軟性や筋力を調整したとしても、感覚的にコントロールできない可能性もあるため体性感覚も重要であることがわかりますね。
前庭感覚と姿勢制御
前庭感覚をつかさどる重要な器官は、内耳に存在する耳石器(耳石膜)と三半規管です。
耳石器は頭部に対する重力のような垂直方向・その他の運動などによる水平方向の直線加速度を検知し、これに対して三半規管は回転加速度を検知します。
これらを総称して前庭受容器と一般的には呼ばれます。
この前庭受容器で得られた感覚情報は、これまで伝えてきた視覚や体性感覚と統合されて姿勢の調節に利用されている感じです。
例えば揺れの激しい道で車を運転したり、ジェットコースターに乗った後に吐き気が起こったり、ふらふらしてしまうのはこの前庭感覚の障害が起こっているような状態だとイメージしてみると良いでしょうね。
この前庭機能を障害されている方に出会うことは少ないかもしれませんが、どのようなアプローチをしても姿勢のコントロールが難しい人はもしかしたらここに原因があるかもしれないので頭の片隅にでも置いておいてもらえたらいいんじゃないでしょうか。
ここまでで姿勢に影響する感覚的な刺激について理解が深まったと思うので、再度受動的・能動的システムによる姿勢制御についても見てみましょう。
屈曲弛緩現象
ここでは受動的システムと能動的システムの協調関係を深く理解するために、屈曲弛緩現象という現象を例に考えてみましょう。
屈曲弛緩現象は、立位で前屈運動をする際に腰椎屈曲の最終域付近では脊柱起立筋の活動が減少あるいは消失する現象のことです。
立位で前屈をしていくと、最初は上半身の重量を支えるために脊柱起立筋のような腰椎後面の筋が働く必要性があります。
そして前屈するほどに筋発揮の大きさも増えていくものの、最終域付近になると筋発揮が減少していくという現象ですね。
この現象を見ると最初は能動的システムが働いて、後半で受動的システムの働きが強まっているという様子が見てとれます。
屈曲弛緩現象は体幹の前屈が代表的な事例になりますが、座位姿勢においても応用がきくので次は座位姿勢についても少し考えてみましょう。
座位姿勢による安定化機構
まず座位姿勢を大きく3つに分けてみます(O’Sullivanの分類)。
- 前かがみ座位(骨盤を後傾させ胸椎と腰椎も後弯位の座位姿勢)
- 胸椎直立座位(骨盤を前傾させ腰椎も胸椎も前弯位の姿勢)
- 腰椎骨盤直立位(骨盤を前傾し腰椎も前弯するが胸椎はゆるやかに後弯した姿勢)
これらの姿勢を見たときに、一般的に前かがみ姿勢は「悪い姿勢」と捉えられることが多いですが、ここでも屈曲弛緩現象のようなものが起きていて筋活動自体は少ないので最も長時間座位が取りやすい姿勢でもあるかもしれません。
デスクワークをしている人がこのような姿勢になりやすいのは屈曲弛緩現象による影響もあるでしょう。
できれば肩こり・腰痛を予防するためには前かがみ座位をとる時間は減らして欲しいと思うと思いますが、どうしても人としては楽なポジションになるので椅子を変える、もしくは根本的にスタンディングデスクにするなどの対策をとれると座位による問題を減らすきっかけになるでしょうね。
姿勢とメンタルの関係
最後に少し違った観点から姿勢を見てみると、姿勢によってメンタルへの影響もあるという実験結果があります。
社会心理学者であるエイミー・カディ(Amy Cuddy)という方がTEDでも話されているので興味がある方はこちらも見てみると勉強になると思います。
具体的にはハイパワーポーズとローパワーポーズという2種類の姿勢がメンタルへ影響するという結果になっているので、それぞれを見てみましょう。
ハイパワーポーズ / ローパワーポーズ
まずそれぞれの姿勢は以下のような感じ。

ハイパワーポーズは、手足をリラックスして広げるような姿勢。

ローパワーポーズは、手足が縮こまり身体も丸まるような姿勢。
実験としては、参加者に力強さを感じているときに出るとされるハイパワーポーズか、無力な時に現れるローパワーポーズを2分間取ってもらったあと、唾液を採取してホルモン値を調べました。
計測したホルモン値は男性ホルモンで活発な動きに影響するテストステロンと、ストレスを感じた時に出てくるコルチゾールになります。
そうすると、ハイパワーポーズをした人はその前と比べてテストステロンが20%上昇しました。反対に、ローパワーポーズをした人は10%減少しました。
また、ハイパワーポーズをした人はコルチゾールが25%減少し、ローパワーポーズをした人は15%増加していました。
よってハイパワーポーズをとった方がストレスが減る、活動的に動きやすくなるというような変化に繋がるわけですね。
なお、この一連のパワーポーズ研究については、その後の追試で再現が得られなかったという報告もあり、効果の大きさについては議論が続いている点も知っておくと良いでしょう。
まとめ
このように姿勢に関して深く考えていくと、解剖学・運動学のような視点だけでなく、感覚刺激やメンタルへの影響など、多面的な見方があります。
クライアントが姿勢を整えたいというニーズに応えるのはもちろんのこと、他の症状に対するアプローチを考える上でも姿勢が起点になることもあるかもしれません。
そしてその姿勢を整えるための方法としても体全体の機能を考えれば様々なアプローチを考えられると思うので、ぜひ参考にしていただけたらと思います。