セラピストとして体の不調や姿勢などにアプローチする時も、身体のバランスは重要だと思われます。
主に子供の発達やスポーツ、高齢者に関わる時はバランスについて考える機会が多いかもしれませんね。
バランスについて考えると身体の感覚や各筋肉の協調活動、神経反射など奥が深いので理解を深めていくと普段の臨床アプローチの幅が広がるはずです。
一緒に勉強していきましょう。
バランスに関わる大きな要素
まずは一言にバランスと言ってもいろんな要素が関わってくるので、感覚系・神経系・筋/骨格系の3ポイントに分けてどのように機能しているかまとめてみようと思います。
感覚系
まず感覚系としてバランスに関与するものは前庭感覚、視覚、体性感覚が主なものだと考えられています。
それぞれ基本的な仕組みは割愛しますが、各器官から受け取った情報をもとにして緊張性迷路反射・立ち直り反射やリーチ動作などの巧緻性運動に関与しています。
このようにバランスに関して考えると、まずはバランスを崩したという状況を感知するような感覚系が必要になるので意識しておきましょう。
神経系
続いて神経系ですが、先ほどの感覚系から受け取った情報を処理するために脊髄、脳幹、小脳、大脳基底核、視床、大脳皮質など、さまざまな器官が役割を発揮することになります。
先ほども反射の話がいくつか出てきましたが、バランスを保つためには意識して行動に移すのでは転倒などの事故を防ぐのに間に合わない場合があり、反射のような形で即座に対応することが重要になることが多いです。
細かい仕組みは複雑になるのでここでも省きますが、特に脳幹は姿勢調節にとって鍵となる中枢部分ですし、小脳もバランス制御への関与が大きいので詳しく知りたい方はそのあたりを深めてみてください。
筋・骨格系
最後に筋・骨格系ですが、もちろんバランス不良を感じ取って脳で認知したとしても筋肉が働いて骨を動かさなければバランスを改善することはできません。
後ほどもう少し詳しく出てきますが、バランスを保つためには支持基底面の間に体の重心を保つ必要があるんですが、その重心の位置をコントロールするために筋肉が働くわけです。
支持基底面とは簡単に言うと足で立っている時にその足の間を繋いだ面のようなものですね。
参考までにこの支持基底面の中でどこまでバランスを保てるエリアがあるか、ということは“機能的支持基底面”と言うんですが、一般的に60歳を超えてくるとこのエリアが減少していき、さらなる加齢によってバランスが取れる範囲が少なくなっていくと報告されています。
これによって転倒が増えてくるわけですね。
このようにバランスに関わるのは感覚系・神経系・筋/骨格系それぞれが必要になってくることは分かったと思いますが、ここからもう少し深めてバランス保持に関する理論的な背景も見ていきましょう。
バランスに関する理論的背景
ここでは3つの理論を紹介していきますね。
反射階層理論
まずは反射階層理論ですが、姿勢保持・バランスに関わる反射にも段階があるというもの。
具体的には以下のような階層が考えられています。
大脳レベル:平衡反応 中脳レベル:立ち直り反射 橋・延髄レベル:緊張性頚反射 脊髄レベル:伸張反射
下にいくにつれて原始的な反射に近づき、上にいくほど意識した行動に近いようなものになっています。
一般の人レベルでは下のレベルの反射障害が起こることはあまりありませんが、例えば運動発達に障害がある方などに関わる機会がある際は知っておくと良いでしょう。
後ほどこのような理論を意識した運動療法についても触れていきますね。
システム理論
続いてシステム理論は最初に紹介した要素をもう少し深掘りして、バランスに関与するシステムとしてまとめたものを言います。
この理論を提唱している人は複数いるので参考までにまずは紹介してみます。
Horakらによるシステム構成 ・眼/頭部安定性 ・感覚系 ・安定性限界 ・環境適応 ・筋骨格系システム ・予期的機構 ・運動協調性
Shumway-Cookらによるシステム構成 ・筋骨格系 ・内的表象 ・適応的機構 ・予期的機構 ・感覚戦略 ・各感覚系 ・神経系
Lordらによるシステム構成 ・反応時間 ・視覚 ・神経筋調節 ・筋力 ・末梢感覚 ・前庭感覚
全てを細かく見て覚える必要はないんですが、これらを見てみると最初に挙げられた3要素をもう少し深掘りして重要なポイントが見えてきます。
これらの要素を考慮することで後ほどの運動療法のバリエーションを増やすことができるので知っておきましょう。
バランス制御における力学的平衡の概念
最後にこちらは先ほどの筋・骨格系のところでも少し挙げたような支持基底面・重心などが関係する概念になります。
まず基本的な考え方として支持基底面の中に重心(COG:Center Of Gravity)があればバランスを維持できるのですが、バランスが崩れてきた時の対応として3つの方法がとられることが多いです。
それが①足関節方略②股関節方略③ステップ方略というもの。
よくよく考えれば当たり前のような感じではありますが、立位姿勢でバランスが崩れた時に足関節・股関節でバランスをとることが多く、それでも支えられない場合は足をステップさせて支持基底面を変化させるといった感じですね。
この基本概念もバランスを考える上では根本的に重要なのでここで知っておいてもらえたらと思います。
運動療法
さて、ここから実際にバランスの問題があるときにどのようなアプローチを行っていったらよいかについて考えていきましょう。
反射階層理論に基づくもの
こちらは先ほど挙げたように中枢神経レベルでの反射を意識したもので、一般の人にはなかなか当てはまらないかもしれませんが何らかの障害がある方には必要になることがあるのでまずはこちらを取り上げます。
具体的にはいくつかの反射テストを行う形になりますが、以下のようなものがあったりします。
・深部腱反射 ・Ashworth scale ・立ち直り反射 ・平衡反応引き出しテスト ・外乱刺激による反応
具体的なテスト方法はネット上でも動画資料がいろいろありますし、普段の仕事の中で実施する機会は少ないとは思うので必要に応じて勉強してみてもらえると良いかと思います。
システム理論に基づくもの
続いてシステム理論に基づくものですが、こちらの方が普段の臨床でもピックアップして活用しやすいかと思われます。
参考までにまずは評価指標を共有しておきますね。

前半は先ほどの反射階層理論にも被る内容がありますが、後半部分は具体的なバランス評価の内容になっていますね。
“バランス”と一言に言ってもかなり複雑になるので、このように保持する姿勢の種類を分類したり、そこでの開眼・閉眼それぞれの状況をチェックするとどんな時にバランスを崩しやすいかということが理解できるようになってきます。
ここに外乱刺激を加えたり、例えばスポーツ分野などではより難易度の高い動作を加えたりするとバランス評価の質が高まっていくでしょうね。
そしてこの評価自体が運動療法にも活用できて、今のレベルではぎりぎりできないところを重点的に取り組むことで改善につながるでしょう。
協調運動障害に対して
ここまで取り上げた運動療法はまだ細かい身体機能にアプローチできていませんが、協調運動障害のリハビリテーションとしてさらに踏み込んだプログラムも実際に行われることがあります。
具体的にそのようなプログラムで考慮することが多いポイントを以下に挙げてみますね。
・運動の自由度 ・シナジー ・小脳の内部モデル(運動学習) ・正確性と運動速度のトレードオフ
なかなか難しい言葉が並んでいるかもしれませんが、運動の自由度・シナジーは例えば下肢の関節運動を考えた時に股関節・膝関節・足関節といった複数の関節を同時に動かそうとするとうまくそれらが協調的に動く必要がありますが、股関節だけ・足関節だけといった形で限定すると思い通りに動かしやすくなりますよね。
また小脳の運動学習の流れというものもあるんですが、新しい動きを覚える時に最初はすごく意識して行わなければならないけど、徐々に小脳が学習していって無意識でも同じ動きが行えるようになる、そのような小脳の機能を意識するのも役立ちます。
また運動速度が上がるほど動作の正確性は落ちるといった逆の方向性があるため、最初はゆっくり正確に実施しつつ徐々にスピードを速くしても安定して動けるようにするのも良い、といった感じです。
このような協調運動障害に対する運動療法として、固有受容器神経筋促通法(PNF:proprioceptive neuromuscular facilitation)やFrenkel(フレンケル)体操といったパッケージとして学べるプログラムもあるので興味がある方は見てみても良いかと思います。
なかなか複雑なバランスという能力ですが、要素を分解して理論的背景を理解することで新たなプログラムを考案したり、個々のプログラムをうまく組み合わせて目的とするバランス能力を身につけることに繋がると思うのでぜひ理解してみてください。