今回は筋トレの科学についてまとめてみようと思います。
普段臨床でクライアントに関わるときに、何気なく運動指導をすることもあると思いますが、筋トレのエビデンスについて調べたことはあるでしょうか?
意外と経験則や一般論で話してしまいがちですが、筋トレについても科学的に検証されて正しさが高そうな情報はやはりあります。
今回はそのような情報を共有できたらと思うので、よかったら勉強してみてください。
筋トレをすることによって起きる体の変化
今回取り上げる筋トレは主に“筋肥大”についてまとめようと思います。
目的によってはスピードや持久力を高めるような方向性はありますが、今回は一般的な筋肉を大きくする、というような筋肥大についてのエビデンスを勉強してみてください。
まず筋肉は、数千から数十万本という筋繊維が束になって形づくられています。そして、筋肥大は、筋繊維の一本一本が肥大することによって生じます。
筋繊維は1つの筋細胞が細長くなったもので、アクチンとミオシンといった筋タンパク質からできており、筋繊維の肥大は筋タンパク質の合成によってもたらされます。
ここで筋タンパク質の合成は常に“合成”と“分解”を繰り返しているので、十分な栄養をとることによって合成が分解を上回るようになれば筋繊維が肥大していくというわけですね。
もう少し詳しい話をすると、体が積極的に筋タンパク質を合成するために重要なのが「哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)」というもの。
筋トレを行うとこのmTORが活性化して、筋タンパク質の合成を促し・分解を抑制するという働きをすることによって筋肥大が起こると考えられています。
より詳しい機序を知りたい人はさらに深めて調べてみてくださいね。
それではこれ以降ではもう少し具体的にどのような筋トレが効果的か、というあたりにも触れていきます。
筋トレの方程式
ここで早速ですが、筋トレの方程式を紹介します。
これを覚えておけば筋トレの方法について考える時のベースになるので、ぜひ覚えておいてください。
筋肥大の効果 = 総負荷量(強度 × 回数 × セット数)× セット間の休憩時間 × 関節を動かす範囲 × 運動スピード × 筋収縮の様式 × 週の頻度
少し長いですが、筋肥大の効果はこれらの要素によって成り立っていると考えられます。
それではそれぞれについてもう少し詳しく見ていきましょう。
総負荷量(強度 × 回数 × セット)
筋トレをしようと思うと、重いバーベルやダンベルを使わないといけないのか、と思うかもしれませんがそうではありません。
2010年にカナダのマクマスター大学で行われた研究で、1RMの90%の高強度でレッグエクステンションを行うグループ、1RMの30%の低強度で行うグループに分け、それぞれ疲労困憊になるまでトレーニングを行う実験がされました。
そこで高強度グループではトレーニング回数が5回ほどで終わった一方、低強度グループでは24回となり、総負荷量は高強度の710kgに対して、低強度は1073kgとなりました。
そこで筋タンパク質の合成率を調べたところ、低強度グループの方が高い増加を示したのです。
ここから分かるように、低強度トレーニングにおいても回数を多くして総負荷を高めることで、筋肥大の効果があることが示唆されました。
よって筋トレの指導をする際にはこの単なる重さだけでなく、総負荷量を意識することが重要であることを知っておいてもらえたらと思います。
セット間の休憩時間
意外と深く考えない休憩時間ですが、筋トレの効果を高めるためにはこれを意識することも重要です。
スポーツ科学の分野では短時間派(1分間)と長時間派(3〜5分間)に分かれて長く議論がされてきましたが、いろいろ検証された結果トレーニング経験の度合いによって調整する必要があるんじゃないか、という結論になっています。
例えばトレーニング経験者は高強度トレーニングを行うことが多く、その場合は休憩時間が長い(2分間以上)の方が総負荷量の増大に繋がり、トレーニング効果が高くなる可能性が考えられます。
一方トレーニング初心者は、中・低強度トレーニングを選択することが多く、その場合は短時間(1〜2分間)の休憩でも十分に高いトレーニング効果が得られることが分かっています。
よってセラピストとして筋トレの指導をする時は、クライアントのトレーニング経験の状況によって休憩時間をコントロールすることで効果が高められるんじゃないでしょうか。
関節を動かす範囲
まず、関節を動かす範囲としてパーシャルレンジとフルレンジという言葉があります。
パーシャルレンジは関節可動域の中間くらいで力の出しやすい範囲、フルレンジは可動域いっぱいに曲げ伸ばしをするような範囲、ということです。
2021年にブラジルのフェデラル大学で行われた研究において、関節を動かす範囲の異なりによるトレーニング効果が調べられました。
こちらの研究では、40名の被験者をアームカールをフルレンジ(0〜130度)で行うグループと、パーシャルレンジ(50〜100度)で行うグループに分け、ともに週2回のトレーニングを10週間行いました。
トレーニングの強度は最初の1〜2週は20RMの低強度トレーニング、その後は徐々に減らし、9〜10週では8RMで行っています。
その結果、パーシャルレンジに比べてフルレンジのグループの方が筋肥大の効果が高かった結果となりました。
よって筋肥大の効果を高めようと思うと、フルレンジでのトレーニングを行うことが推奨されます。
ただ、フルレンジのトレーニングは怪我のリスクが高まりやすい、という懸念点があります。
よってそのあたりはトレーニングの効果と怪我のリスクを考えながら可動域を選択することが必要なので、運動指導をする際にはちょうど良い範囲を推奨できるといいですね。
運動スピード
こちらの問いに関しては、2015年にニューヨーク市立大学で行われた研究が参考になります。
こちらはメタアナリシスという一定の基準を満たした複数の研究結果をまとめたものになりますが、そこでは3つの運動スピードにグループ分けして、筋肥大の効果との関連を検証しました。
運動スピードは関節の曲げ伸ばしをする両方の時間を足したもの、と定義されています。
速い:0.5〜4秒 中等度:4〜8秒 遅い:8秒以上
その結果、“速い”“中等度”グループでは筋肥大の効果が認められたものの、“遅い”グループでは筋肥大の効果が認められませんでした。
よって、8秒以下の運動スピードであれば速くても遅くても筋肥大の効果があり、8秒より遅いと筋肥大の効果は低いという解釈がなされています。
ここには「運動単位の動員」ということが関係すると考えられています。
運動単位は1つの神経がどのくらいの筋繊維を動かすか、という指標ですが、ここに運動スピードが関係するということです。
具体的には運動スピードが速いほど大きな運動単位が動員でき、多くの筋繊維を収縮することが可能になるため、その上限が「8秒以内」ではないかというのが上の研究の結果として示されているわけです。
これも怪我のリスクを考えながらになりますが、可能であれば8秒以内のスピードでトレーニングを行えると良いかと思います。
筋収縮の様式
最初にお伝えしておくと、この項目はまだエビデンスが確立していない項目になるのでご了承ください。
ここでまず筋収縮の2つの様式を紹介しておきます。
求心性収縮(短縮性収縮 / ポジティブ動作):筋肉の長さを短くしながら収縮する 遠心性収縮(伸長性収縮 / ネガティブ動作):筋肉の長さを伸ばしながら収縮する
トレーニングを行ったことがある人ならわかると思いますが、遠心性収縮の方が重い重量を扱えることがあり、それによってそちらの方が筋肥大の効果が高いんじゃないか?と言われることがありますが、ここはまだ議論が分かれているところです。
2009年にカナダのブリティッシュ・コロンビア大学で行われた研究では遠心性収縮の方が筋肥大効果が高いという結果になったものの、2017年にニューヨーク市立大学で行われた結果では、求心性収縮・遠心性収縮によるトレーニング効果には統計学的な有意差が見られず、遠心性収縮の方がやや高い程度であった、というような結果になっています。
ここで、そもそも遠心性収縮の方が重い重量に耐えられるのは求心性収縮にはない特殊な筋収縮のメカニズムがあると考えられているからです。
そこで登場するのが「チチン」というタンパク質。
筋収縮に関わるアクチン・ミオシンというものは有名ですが、実は遠心性収縮で伸ばされていく時にこのチチンというタンパク質がもつバネのようなスプリング能力によって支えられているとされています。
よって重い重量を扱えたからといって筋への刺激が急激に増えているわけではないため、まだこの筋収縮の様式には議論が分かれるところなわけですね。
今のところは筋肥大の効果を高めるにあたって収縮様式にこだわりすぎず、全体の総負荷量を高める方が効果としては高めやすい印象です。
週の頻度
こちらに関しては、結論としては週の頻度よりも先ほど出た総負荷量が筋肥大には影響する、ということになっています。
2018年にオクラホマ大学で行われた研究では、トレーニング経験者を集めて、頻度を週3回、週6回という2つのグループに分けた上でスクワット・ベンチプレス・デッドリフトのトレーニングを行いました。
ポイントは3種目ともに週単位の総負荷量が同じになるようにしたこと。
こうしたトレーニングを6週間継続したところ、両グループともに筋肉量が増加したものの、グループ間では差が認められなかった結果となりました。
この研究だけでは一定の見解はなかなか示しづらいのではありますが、他の研究を見ていってもやはり週のトレーニング回数よりも結局総負荷量が筋肥大の効果には影響することが分かってきています。
どうしても忙しくて時間が取れないのであれば週の回数は少なくても一度に多めにトレーニングをする、週の回数は増やせるものの一度にたくさんトレーニングをするのはしんどいという場合は回数を増やす、といった具合にクライアントの状況に応じてトレーニング量を決めていけるといいんじゃないでしょうか。
まとめ
今回はセラピストのための筋トレの科学というテーマで、ベースとなる知見を紹介しました。
改めて書いておくとこちらになります。
筋肥大の効果 = 総負荷量(強度 × 回数 × セット数)× セット間の休憩時間 × 関節を動かす範囲 × 運動スピード × 筋収縮の様式 × 週の頻度
これで筋トレの組み立てはある程度しやすくなるとは思いますが、今回はまだ筋トレの方法や内容については触れられていません。
これに関してはスポーツで結果を残したい、健康維持のために体づくりをしたい、モテる体型に近づけたい、など目的に応じて鍛える部位が変わってきます。
筋トレは特異性が重要、という考え方もあってこれは目的に応じた内容を設定する必要があるということ。
例えばジャンプ力を高めたいのであれば大腿四頭筋やハムストリングス・臀筋のような下半身を鍛える、腰痛の予防をしたいのであれば体幹を鍛える、など目的に応じた内容設定が必要になります。
ぜひセラピストとして今後クライアントに対して筋トレ指導をする時は、今回の内容に加えて適切な筋トレ内容を指導して目標達成のサポートをしていただけるといいんじゃないかと思います。