セラピストとして運動指導をする機会もあるかもしれませんが、その際に子供の頃からどのように発達していくか理解しておくことは重要でしょう。
子供の対応はもちろんのこと、成人・高齢者においてリハビリテーションとして役立つ知見もあると思います。
これを機に一緒に勉強してみましょう。
運動発達と神経学的背景
まずは人が生まれて成長していく中でどのように運動発達が進んでいくかをみてみましょう。
神経ネットワークの形成過程
脳の重量は妊娠40週に380gだった頃から、18歳になると1400gまで増加すると言われています。
この増加にはいくつかの要因がありますが、軸索の髄鞘化(myelination)にあると考えられています。
髄鞘化はグリア細胞の一種のオリゴデンドログリアから生じた突起が軸索に巻きつくことによってなされるんですが、この髄鞘化が起こることによって情報伝達速度が向上して運動の精度も上がっていく仕組み。
これと合わせてシナプス形成というネットワークも構成されていくんですが、特徴的なのは生後2ヶ月〜4ヶ月の間に急激に増え、1歳を過ぎる頃にはシナプス密度が減少し始める。
このように過剰に増加した後不要なシナプスが刈り込まれていく中で成熟した大人の脳に近づいていくわけですね。
環境の影響
上記のように神経ネットワークが構成されていくわけですが、誰でも同じように進んでいくわけではなく、やはり環境によって変化が変わってきます。
子供の運動をイメージしてもらうと上手にご飯が食べられなかったり、歩く時も転んだりしやすいのを感じると思いますが、このようなことも繰り返すうちに上手になっていく。
このような過程の中で先ほど言ったようにシナプスが刈り込まれていくわけです。
運動をする時などにはシナプスを通して神経細胞が標的細胞に向かって刺激を興奮させるわけですが、有効に働かなかった場合はそれで淘汰されていきます。
ゴールデンエイジと呼ばれる言葉もあるように子供のうちに多様な運動をしておくとシナプスの形成が増えて、将来的にも運動能力が高まる可能性がここからも考えられますね。
随意運動の発達理論
ここからはもう少し具体的な運動の変化についてみてみましょう。
運動発達の流れ
随意運動というのは意識的に自分で体を動かすということですが、妊娠中〜生後初期では無意識の動きもけっこういろいろあるんです。
ライジング運動・フィジェティ運動と呼ばれるもの(ジェネラルムーブメント)ですね。
このような無意識の運動から徐々にリーチ動作をする、座る、四つ這い・はいはいをする、つかまり立ちをする、階段の登り降り、1人で歩く、というような意識的運動に移行していきます。
運動学習
さらに成長していく過程の中ではいろんな運動を覚えていきますが、そこでは運動学習というプロセスがあります。
そこではFittsという研究者が提唱した3段階説というものがあるのでざっと解説してみます。
①言語 - 認知段階 学習課題の理解、すなわち何をするのか?ということに焦点を当てる
②運動段階 どのように行うのか?ということに焦点を当てて実際に試して運動していく
③自動化段階 課題を行う際の注意が減っていき、無意識でできるようになっていく
体育の授業やスポーツなどをイメージして新しい運動を覚えていく時はだいたいこのような流れになっていることは想像しやすいんじゃないでしょうか。
ここからリハビリについてもう少し深めた時に部屋の中でできることが屋外でもできるようになるといった転移や、新しい動きを覚える時の動機づけ(内的・外的)といった内容もあるので、運動学習に興味がある方はこのあたりも調べてみてもらえたらと思います。
運動システムの発達
ここで発達障害に対する運動療法についても少し触れてみようと思います。
発達障害の運動評価
主に脳性麻痺の子供を対象とした運動評価にはGMFCS(Gross Motor Function Classification System)と呼ばれるものがあります。
こちらでは2歳まで、2〜4歳のような年齢別にレベル1〜5までの分類がなされていて、そこにおける運動能力の達成度を評価することができます。
もう少し個別の身体機能を見てみると筋緊張の異常を伴うこともあるので、その場合はMAS(Modified Ashworth Scale)やMTS(Modified Tardieu Scale)あたりが使われることが多いですね。
他にも筋力、バランス、異常姿勢、拘縮なども課題になりやすいので状況に応じてはこのあたりも評価する必要が出てくることがあります。
発達に基づいた運動指導
上記のような評価結果にもよってきますが、発達に基づいた運動指導の方法もいろいろあります。
具体的な内容としては筋力トレーニング、ストレッチ、バランストレーニングなど一般の人でも活用されるものもありますが、疾患について理解しておくとそのバリエーションも増えてくるでしょう。
例えばDNS(Dynamic Neuromuscular Stabilization)というノウハウがあったりもしますが、こちらを体系的に学ぶと臨床にも活かしやすいかもしれませんね。
こちらはまさに赤ちゃんの動きを使ったトレーニング方法で、陸上競技選手の室伏広治さんも取り入れていたりしました。
フィジカルリテラシー
最後にフィジカルリテラシーという言葉も紹介してみます。
リテラシーとは「読み書き」という意味ですが、身体における読み書きのような基礎的機能をフィジカルリテラシーと言います。
こちらを身につけておくことで健康に近づいたり、スポーツをしている人であればパフォーマンスを高めるきっかけにもなると思うのでよかったら勉強してみてください。
フィジカルリテラシーの4要素
まずはスポーツ庁におけるフィジカルリテラシーの定義を書いてみますね。
体育・保健体育の授業等を通して、運動好きな子供や日常から運動に親しむ子供を増加させ、生涯にわたって運動やスポーツを継続し、心身共に健康で幸福な生活を営むことができる資質や能力
自分たちも子供の頃に新体力テストと呼ばれるような身体測定があったと思いますが、そのような身体能力だけでなく、運動を楽しんで心身共に健康で幸福な生活につなげていくことが目標になっています。
そこでフィジカルリテラシーは以下のような4つの要素で構成されると考えられているようです。
- 身体領域:運動能力など
- 感情領域:モチベーション、自信など
- 認知領域:知識、理解など
- 社会領域:他者との関係性など
セラピスト職を目指したきっかけがスポーツや運動経験にある人もけっこういるかもしれませんが、運動を通して身体能力を高めるだけでなく確かに感情・認知・社会にもつながることもありますよね。
子供の運動にまつわる社会課題
このようなフィジカルリテラシーを高める意識をすることで子供の運動にまつわる社会課題の解決に近づくかもしれません。
まずわかりやすい身体能力に関しては、全体的に低下傾向が続いています。


そして子供の運動時間も全体的には少なくなっている傾向にあります。
セラピストとしてはより多くの人に健康になってもらいたいと思うと思いますが、やはり子供の頃から運動習慣をつけたり、運動機能を伸ばしたり、運動を楽しむきっかけを作ることは重要だと考えるので身の回りでできることを増やしていってもらえたら嬉しいです。