日本人におけるウェルビーイング・幸福とは

世界幸福度ランキングで日本が低い理由を協調的幸福感という概念から読み解き、「上より奥」「2つのN」「中空構造」といった日本文化の特徴と、少子高齢化への向き合い方を考えます。

これまで冷え性や肩こりのような日本人に多い症状、メンタルヘルスに関するコンテンツもありましたが、それぞれにおいて日本人の文化観の影響についても話題にあがりました。

今回は改めて日本人の精神性や特徴に関して、さまざまな文献を引用してまとめてみようと思います。

もちろん日本人と言ってもさまざまな人もいるし、個性の違いもありますが、多くの日本人に通じる文化はある程度あると考えられるため、参考にしてもらえたら幸いです。

日本人は不幸なのか?

ニュースなどで幸福度ランキングで日本はそれほど高くない、というような情報を聞いたことはないでしょうか?

幸福度の調査にもいろいろ種類があるんですが、今回はWorld Happiness Reportの情報を起点に考えてみようと思います。

World Happiness Report

「世界幸福度ランキング」は、毎年3月20日に「世界幸福度報告(World Happiness Report)」にて発表されています。

World Happiness Report 2025 の国別ランキング上位一覧

それ以前でも50位前後になることが多いですが、どんな印象を持ちますか?

日本の幸福度スコアの年次推移を示すグラフ

幸福に影響する大きな要素

World Happiness Reportの評価において主に幸福に影響する要素は以下のようなものが考えられています。

  • 1人当たりのGDP
  • 社会的支援の有無
  • 健康寿命
  • 自由の感覚
  • 寛大さ
  • 政治的腐敗の認識

日本は世界的に見ると経済力や健康については比較的高い印象ですが、それ以外の社会的支援や自由の認識、政治的な不安において他国と比べるとポイントが低くなっている感じのようです。

日本人的な感性に合うか

ここで改めて幸福の要素について考えてみようと思いますが、World Happiness Reportのような国際的調査はやはり西洋諸国の価値観が反映されることが多いので、一部日本人の感覚には合わない部分もあると考えられます。

西洋における幸福は自己実現型幸福(Self-Actualization Happiness)と言われることがあり、[幸福 = 自己実現 + 快楽 + 自尊感情 + 個人満足]というような感じで、成長やポジティブな感情に幸福を感じやすい特徴があるようです。

一方で、近年協調的幸福感(Interdependent Happiness)というような概念も広がってきており、[幸福 = 関係的調和 + 安心 + 普通性 + 集団内適応]というような考え方の方が日本に合うのでは?とも言われ始めています。

このような日本的な幸福感について、もう少し深掘って考えてみましょう。

日本人的な幸福感

日本語の「幸せ」の語源は、お互いに何かをやり合う「為合わせ(仕合わせ)」にあるとも考えられています。このことから、日本人的なウェルビーイングの本質は、個人の達成よりも「人間関係の中から立ち現れるもの」であると言えるかもしれません。

それ以外にも日本らしさについて考えていった時に見えてくる特徴をいくつかピックアップしてみようと思います。

上より奥

先ほど出てきた西洋的な自己実現型幸福は、「上昇」や「拡大」という上の方向を目指すようなイメージがありますが、日本的な幸福はどちらかというと奥にあるような考え方があります。

職人的にじっくり深めたり、奥の方でひっそりと仲を深めたり、老後は隠居してゆっくり過ごす、など派手ではなく静かに幸せを噛み締めて自分や身近な人に向き合うようなイメージが湧きやすいと思います。

京都のような古い街並みにも奥に分け入った先に一見さんお断りのお店があったり、神社などでも大きいところは門に入ってからくねくね道を分け入った先に象徴的な建物があったり、一直線に上に向かうような雰囲気とは違った特徴があるでしょう。

このような「見える場所」よりも「見えない場所」に価値がある世界観を示しているのは日本的な印象を抱きますね。

2つのN

Nobody・Negative、この2つのNがつく言葉も日本の特徴をあらわしていると考えられます。

日本の昔話には名無しの権兵衛のような存在が多く、名もなきおじいさん・おばあさんのような人も多く登場します。

また江戸時代に連という歌を詠み合う会がありましたが、号という別の名前を用いたりもしていました。

英語とは違って、必ず主語を入れるわけではない言葉の使い方も特徴で、このあたりから個人を不在にさせるNobodyという特徴も見えてきます。

またNegativeに関しては、日本人の中には良いことがあった時にも、次に悪いことが起こるんじゃないかという不安を持つことがある人もいるんじゃないでしょうか。

西洋の物語が立身出世やハッピーエンドを好むのに対し、日本の昔話は「ゼロに戻る」ことや、変化のない結末を良しとする傾向があります。これは「プラスに行き過ぎると不安になる」という日本人的な感覚の表れかもしれません。

“わびさび”のような文化や、すぐに謙遜してしまう話し方も日本人っぽさがありますよね。

間のからっぽ

日本社会の深層には、中央が空虚である「中空構造」という概念が指摘されています。

神話の中でアマテラス・ツクヨミ・スサノオという神様が出てきますが、アマテラス・スサノオに関しては特徴的な物語がある一方でツクヨミはあまり物語の中に出てきません。

他にも人気お笑い芸人やバンドなどでも、パッと見何の役割を担っているかはわからないけども、どうやらメンバーからの信頼は厚いらしい、というような存在がいることもありますよね。

このような、ただいるだけで価値がある存在がいることも日本的な特徴だと考えられています。

日本文化における中空構造の概念図

人間関係を図式化したときにアメリカでは自分を中心に人が関わっているようにイメージ化することが多いものの、日本では自分が他者との関係性の一部のように捉える人が多いようです。

アメリカ人が描く人間関係の図。自分を中心に他者が配置される

日本人が描く人間関係の図。自分も他者と対等な関係性の一部として配置される

また自己の認識に関しても、他者との境界が明確というよりは、他者と関わり合う中で自己が形成されていて、確固たる自分がいるというよりは人によって自分の出し方も違って関係性の中で自己が形づくられているイメージを持つ人も多いんじゃないでしょうか。

このような特徴がメンタルヘルスにも影響してくることが考えられます。

日本の未来に対する不安

日本人的な特徴が少し見えてきたところで、これから先どのようなことを意識していくと良さそうか考えてみようと思います。

近年の社会や国際情勢を見ると日本という国に不安を感じたり、自分の今後をどうしたら良いか迷っている人もいると思うので、改めて考え直すきっかけにしてもらえたらと思います。

日本人の生産性は低いのか

先ほどの幸福度ランキングでも1人あたりGDPが影響してくるという話がありましたが、2024年のデータは以下のようになっています。

世界の1人当たり名目GDP国別ランキング(2024年)

トップファイブを見てみると、実は「人口の少ない国」がランクインしています。

例えば「人口5000万人以上」という条件で分析をしてみると、2023年時点では6位になるようです。このようなカラクリがあったりするので、単純にランキングで見るのはやはり注意した方が良さそうですね。

また生産性に関しては量を測る指標なので、質に関しては調査しきれないこともあります。

セラピスト領域であればセラピストの人数や学歴などが見えやすい指標かもしれませんが、他国の状況を見ても日本人の職人的なスキルや、クライアントへ寄り添うコミュニケーション・サービスの質は高いレベルにあると思うのでさらに研鑽していけると良いでしょう。

日本人は周りの空気を読んで業界のスタンダードに流されやすい傾向にあると思いますが、ある程度独自の強みをみつけて活かせる手法を考えておくのは有効かもしれません。

少子高齢化する日本は衰退するのか

また近年よく少子高齢化についても不安材料のように語られることが多いと思います。

ここで参考になるのが2024年に経済学者のガストン・カイシアルスによる世界111カ国を対象に行った「人口の伸びと経済成長には本当に関係があるのか」に関する調査です。

この分析でわかったのは、

  1. 人口と経済には関係があり、人口が増えれば経済は伸びるし、経済が伸びれば人口も増える
  2. ただし、成熟経済においては、経済が成長しても人口は微増しかせず、人口が増えようが減ろうが経済はさほど変化しない

ということ。

ここから考えると少子高齢化・人口減少に対して過度に不安を抱く必要はないかもしれません。

むしろセラピストの専門性は高齢化が進んでいけば活かせるフィールドが増えるし、さらに海外まで目を向ければ日本の知見に価値を感じてもらえる可能性も十分あります。

今回は日本におけるウェルビーイング・幸福の考え方をまとめてきましたが、西洋側から日本的な幸福感について知りたいというようなニーズが生まれる可能性もあるでしょう。

実際に“ikigai”や“zen”のような日本では知られている言葉が海外で興味を持たれることもあるので、改めて日本について学んでおくことは価値があると思います。

幸せにならなければ生きる意味はないのか

ここまで日本人のウェルビーイング・幸福についていろいろ考えてきたんですが、改めて幸せにならなければ生きる意味はないのか?ということを考えると必ずしもそうではないんじゃないかとも思われます。

もちろん幸福になることは良いことだとは思いますが、近年の研究では自己の「幸せ」や「楽しさ」を追求する人ほど、実は実際の幸福度は下がるような報告も出てきているんですよね。

これは健康にも通じるところで、健康を意識した生活をしすぎると逆に暮らしが味気なくなったり、活動が制限されすぎてしまったりもすると思います。

他には無理にポジティブな感情になろうとして逆にネガティブな効果につながってしまったり、ネガティブな感情であってもそれを受容できる考え方を持っていると日常の不安が少なく生活の満足度が高くなることもあるようで、このあたりは実は日本人の得意なところかもしれませんね。

そして人生における深い満足感を得るためには「苦痛」と「意味」をセットで考える必要があるとも考えられており、本当に充実したと感じられる体験には以下のような特徴があると考えられています。

  • 達成するまでに長い時間と努力を要する
  • 他人に影響を与えることができる
  • 物語として語ることができる

セラピストの仕事も毎日が楽しく、ポジティブな感情になることばかりではないかもしれませんが、他者に良い影響を与えて、理想的なセラピストになるためには長い研鑽も必要だと思いますが、その中でどんどん自分として語れる物語も蓄積してくると思うので、ぜひ自分自身の満足感も高めつつ、他者のウェルビーイング・幸福について考えていってもらえたらと思います。

まとめ

今回は日本におけるウェルビーイング・幸福の特徴を見てきました。

近年であれば個人の独立・自由を推奨するような流れも多くなっていると思いますが、全てを1人でできるわけではないのでお互いに支え合えるような社会的支援について考えることも重要ですし、広く政治についての理解を深めていくことも大事だと思います。

自分も含めて、身の回りの幸福・ウェルビーイングの輪を広げていくために参考にしてもらえたらと思います。

参考文献・出典