ストレスマネージメントの科学

ショート・ループ・ロングという3種のストレスを整理し、ホルミシスやレジリエンスの考え方から、呼吸・運動・自然という3つの解消法、認知の歪みへのアプローチまでを扱います。

セラピストという仕事は、人の体の不調と向き合うことが多いですがそこでクライアントの抱えているストレスについて考える機会はやはり多いと思います。

体の不調を改善するためにクライアントのメンタルの状況を考慮することも必要でしょうし、直接メンタルの不調に対するアプローチを考えることもある。

そこで今回は今一度ストレスとは何なのか?どのようにアプローチすることが良いか?ということを一緒に考えてみましょう。

ストレスの種類

まずは「ストレス」というものについての理解を深めてみましょう。

複数あるストレスについて知っておくと対処の方法も考えやすくなると思います。

ショートストレス

これは短い期間にだけ感じるストレスで、普段触れる機会が多いもの。

例としては、「あいつムカつく!」「車にぶつかりそう」「仕事の締め切りが近い」など、毎日の暮らしの中で最も体験するものになります。

ループストレス

ループストレスはショートストレスを何度も繰り返してしまうタイプのものになります。

例えば自分の部屋が汚いのがストレスだったとしたら、片付けをしないとずっとストレスを感じ続けてしまう、など。

ロングストレス

ロングストレスは最も人生へのダメージが大きいもの。

「ブラック企業に入ってしまって辞められない…」「ずっと借金の心配をしている…」「子供の頃にいじめられた記憶が忘れられない…」など、ループストレスがさらに深刻化してしまっているような状況になります。

ストレスは大きく分けるとこのような3種類に分けられますが、小さなストレスであればすぐに解消する、慢性化してしまっているものであれば根本解決を目指したり、ストレスの捉え方を変えていくようなアプローチも必要になってくるでしょう。

ただストレスは全てが悪いわけではなく、時には体の機能を改善させるきっかけになる場合もあるのでもう少し深掘りしてみますね。

若返るストレスと老けるストレス

先ほどのロングストレスは体に悪影響をもたらす「老けるストレス」とも考えられますが、ショートストレスはうまく活用すれば「若返るストレス」になる場合もあります。

ここでは若返る機序について主に見ていきましょう。

ホルミシス仮説

「ホルミシス」とは1888年にドイツの科学者ヒューゴ・シュルツが見つけた現象で、少量の毒薬がイースト菌の成長を加速させている現象を見つけました。

ここから調査を進めた結果“すべての物質は、少量であれば刺激し、適量であれば抑制し、多量であれば殺傷する”という現象が見つかり、このことをホルミシスと呼ぶようになりました。

例えばワクチンも似たようなもので、毒性の弱い病原体や抗原を体内に送りこみ、人間が生まれ持つ防御システムを活性化させることで、また同じ病原体に襲われても病気にかからない体にする仕組み。

この仮説がストレスにも当てはまるんじゃないか、と考えられているわけです。

エクスポージャー

具体的に脳に少量のストレスを与えて活性化を促す技法を「エクスポージャー」と言います。

一例として、他人に話しかけることが苦手でストレスを感じやすい人の場合は、少しずつその負荷を上げていく方法を考えます。

例えば、

  • 家族に悩みを打ち明ける
  • 飲み会で簡単な乾杯のあいさつをしてみる
  • 信頼できる友人に隠していたことを話してみる

など。

成長させたい能力があった時に、少しのストレスを通して活性化することを考えてみると良いですね。

レジリエンス

もうひとつメンタルに関する考え方として「レジリエンス」というものがあります。

メンタルが強い人をイメージするといつもポジティブな人を思い浮かべるかもしれませんが、何か思い通りにいかないことがあっても立ち直れる力のことをレジリエンスと呼びます。

いわゆる打たれ強さのようなもので、失敗してもくじけない能力ですね。

よってストレスに対する対処法を考えていくときに、うまくこのレジリエンスを高められるようにしていくとメンタル不調が起きづらくなると思うので意識してみてください。

ストレスマネージメント

長期的にはメンタルの強さを獲得していくと良いと思いますが、セラピストとして体の不調がある人に関わる場合はやはり今ストレスに悩んで困っている人もいるでしょう。

その時はまずはクライアントに寄り添ってストレスに感じていることを分析し、適切なアプローチができると良いと思うのでその方法について共有しますね。

評価

一般的なアプローチの考え方としてSOAP(Subjective:主観的、Objective:客観的、Assessment:統合と解釈、Plan:計画と行動)というものがありますが、まずは主観的な情報を聞けるようにしましょう。

傾聴・カウンセリングのような手法がありますが、とにかく相手の立場に立って今ストレスに感じていることを把握できると良いです。

ここで先ほどのショート・ループ・ロングのようなストレスの種類も把握できると良いですね。

また、ストレスを客観的に把握するために数値化をすることもおすすめです。

例えばストレスサーモメーターというもので、10段階評価をするのはやりやすいでしょう。

ストレスサーモメーター(10段階でストレスの強さを評価する尺度)

他にはストレスダイアリーというような、時間・状況に応じてどんなストレスを感じたかというものもあります。

ストレスダイアリー(時間と状況ごとに感じたストレスを記録する表)

あとは最近だとOURA RINGという指輪型のウェアラブルデバイスや、アップルウォッチでもストレスを評価できるシステムが導入されてきているのでこのあたりも要注目です。

ストレス解消

ストレス解消の方法にもいろんなものがあるんですが、3種の神器と呼ばれるようなベースになるものは呼吸・エクササイズ・バイオフィリア(自然に触れること)が有効だと考えられています。

・呼吸

「ストレスを感じる時は深呼吸で落ち着けよう」ということはよく聞くと思いますが、さまざまな研究でも呼吸の効果は検証されています。

一般的に人間の体は不安やイライラを感じると心拍数が上がって全身が緊張し、脳に酸素を送るために息が荒くなるわけですが、ここでわざと呼吸を遅くすると心拍数が下がって体の緊張を緩めることができるわけです。

ヨガやマインドフルネスのようなアプローチでも呼吸に意識を向けることが多いですが、これは体の仕組みとしてリラックスするためには理にかなっているわけですね。

呼吸にもいろんなアプローチがありますが、新しいデバイスもいろいろ出てきておりその1つがハーバード大学のメディカルスクールが推奨するBreathing Zoneというアプリがあります。

アプリを起動してユーザーがスマホの話し口に向かって数秒普通に呼吸をすることで、自分にとって無理のない間隔での呼吸リズムに設定してリラクセーションを行える仕様になっています。

・エクササイズ

運動における効果として正確性が高いデータは、イリノイ大学などの研究チームが行った大規模な調査があります。

この調査では過去15年間に出た膨大な論文から精度の高いデータだけを選び、「日常の運動でどれだけメンタルが強くなるか?」ということをチェックしたところ、「20分の早歩きでも人間の不安は大幅に減る」というものでした。

長時間のランニングや激しい筋トレをやらなくてもストレス改善効果があるとされた結果だったことから、多くの人が取り組みやすいと思いますし参考になるデータですね。

運動がメンタルの改善に役立つのは脳の機能を高める物質が分泌されるからで、BDNFやセロトニン、エンドルフィンなどによる効果が大きいと考えられています。

・バイオフィリア

聞きなれない言葉かもしれませんが、バイオフィリアとは「人間の脳には大自然との触れ合いを求める欲望が備わっている」という意味です。

このアイデアは1980年代にハーバード大学のE・O・ウィルソンが提唱したものでさまざまな検証も行われており、代表的なものとしてはイギリスのダービー大学が2016年に手がけたメタ分析です。

こちらは質が高い871人分のデータを解析したもので、結果としては自然と触れ合うと副交感神経が活性化して一気にストレスが減る、というもの。

効果としては呼吸・運動よりも高いと考えられているので、ストレス対策として自然に触れるような機会を作るのは非常におすすめです。

ストレスの捉え方

かかったストレスを解消する場合は上のような手法がおすすめですが、やはりストレスの根本原因にアプローチすることも重要です。

大きく分けると思考と受容のアンバランスによってストレスをより感じている場合もあるので、ここではそのあたりについて触れますね。

・思考のアンバランス

これは簡単に言うと考え方や物の見方に偏りがある状態を意味します。

この思考のアンバランスは以下のような5つの種類があるので、参考にしてもらえたらと思います。

①個人化:なんでも自分のせいだと考える思考 例)自分のミスでプロジェクトが失敗した…

②外部化:なんでも他人や環境のせいだと考える思考 例)すべて親の育て方が悪かったせいだ!

③読心:他人が思っていそうなことを勝手に推測する 例)「この人はわたしを嫌っている」

④ラベリング:他人や自分にレッテルを貼る 例)「俺はバカだ」「あいつは最低だ」

⑤白黒思考:なにごとも良いか悪いか決めないと気が済まない 例)「試験に落ちたら負け犬だ」

なかなかこのような認知の歪みを解消するのは難しいですが、セラピストとしてクライアントと信頼関係を作ることで捉え方のサポートはできるようになるかもしれませんね。

・受容のアンバランス

受容=受け入れる、という意味なので、自分ではコントロールできないことによって受けたストレスに対処できるかどうか、というものになります。

例えば「仕事で重大なミスをした」というときに人によってその捉え方が違うでしょう。

  • パターン1:ミスしたのは事実だから、次は同じことをしないように気をつけよう
  • パターン2:あの時もっと早く仕事に手をつければミスなんて起きなかったのに…

受容のアンバランスが起きているのはパターン2で、過去に起きたミスはどうしようもないことなのでうまく受け入れて次に繋げられるのが理想です。

このような時もセラピストとして寄り添いつつフォローしてあげるとストレスを抱え続けなくてもすむので信頼度が高まるでしょうね。

ここまでさまざまなストレスに対する対処法をお伝えしてきましたが、ストレスマネージメントの大きな目的は第二の矢を減らすこと、ということだと考えられています。

人間は生きている限りストレスを0にすることはできませんが、そのストレスを解消したり、捉え方を切り替えることで、生活や仕事において支障が出ることは減るはず。

自分自身やクライアントにあったストレスマネージメントの方法を見極められるようになりましょう。

参考文献・出典